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16吹雪は止んでいた。暗く青い天空から落ちてくる雪片は静かに、わずか空気の抵抗を 受けながら羽根のように降り積む。 ランボは呆然と、地平線の彼方を見ていた。足下から地平線まで、一面を覆った白い 雪原の真ん中に、定規で引いてもこれ以上美しくは引けないのではないかと思われる直 線が伸びていた。それが線路だと知っていたし、見れば分かったけれども、それでもラ ンボは信じられなくなるのだった。 「……ボンゴレライナー?」 「鉄道は男のロマンだ」 後ろに佇むリボーンは、まるで軍用のようなコートを羽織っている。それが様になっ ているのが恐ろしい。ここはロシアだという。一体、ボンゴレファミリーはどこまで手 を広げれば気が済むのか。 ランボが覚えているのは、駅に呼び出されたリボーンと戦おうとしたところまでで、 何か強烈な痛みと共に記憶は途切れ、さっき起きた(正確には蹴り起こされた)時は、 暗い部屋の長椅子の上に横になっていた。 「寝汚え牛だな」 開口一番にリボーンは言った。ランボは咄嗟に懐の銃を探したが、なかった。悪口で 応酬してやろうと思い、顔を上げたが、リボーンが眉を寄せながらも何だか笑っている ように見えたので、やめた。 今は、リボーンが用意した毛皮に身をくるんで、リボーンと二人、ロシアの雪原のど 真ん中に立っている。 「…夜?」 「夜だ」 「今日…何日だよ」 「十月十三日」 ランボが首を傾げて振り向くと、リボーンが珍しく笑っていた。 「俺は、朝が来てから日付が変わる主義だ」 「…誕生日なのかよ」 「そうだぞ」 リボーンが懐から銃を取り出す。CZ75セカンド。手の中で回し、銃口をこめかみ に押しつける。 「今日、俺は死んだ」 「え!」 「ちなみにお前も死んだ」 「ええっ!」 「俺の誕生日にだ。めでてーだろ」 「えっ? えっ? ええっ?」 ランボは慌てて毛皮を捲り、自分の足を確認する。あった。リボーンに向かって手を 伸ばすと、馬鹿なことするんじゃねーぞ、とブーツを履いた足を見せられた。 「じゃあ、死んでも足があるのか…!」 「寝ぼけてんじゃねーぞ、アホ牛」 「だ、だって…」 にやにやと笑うリボーンを見るうちに、この世に存在しない、というレトリックに辿 り着いた。 「逢い引きもままならねーからな。守護者とは言え、お前はボヴィーノだし、格下だ。 何より格下だ。格下を相手にしねーんだ俺は。何故ならお前は格下だからな」 「格下格下うるさいな!」 「事実だ」 「事実って…」 しかしランボの顔は不意に赤くなる。 「逢い引きも、ままならねーだろうが」 「…それで、こんな所まで」 「こんな所とか言うな」 「え?」 「ここは…」 リボーンが顔を上げる。思い切り天を仰ぐ。ランボもつられて天を仰ぎ。 そして言葉を失った。 雪の消えた空に、カーテンがかかる。薄い緑から、柔らかな黄色へ。揺らいで、また 緑。青みがかる。色は一瞬として同じ色ではなく、二人の観客を魅了した。 「う、わ……」 「ランボ」 リボーンが名前を呼んだ。その瞬間、小さな震えがランボの足下からはい上がった。 それは決して寒さのせいではなかった。リボーンはランボの横に並び、小さな声で囁い た。 「俺も初めてだぞ、オーロラを見るのは」 ランボはうなずいた。 冷たい指が手袋から覗く手首に触れた。ランボは手袋を脱ぎ捨て、リボーンと指を絡 み合わせた。固く繋いだ手は、そのままリボーンの上着のポケットに突っ込まれた。 指先から伝わるくすぐったさが、心臓まで届いて、ランボは泣きそうになったが、我 慢した。泣いたら、涙から凍ってしまいそうだったし、それに今泣いてオーロラが見え なくなるのは勿体なかったからだ。 フェザーワルツの宙 |