ハッピー・ニュー・ムーンライト




 テレビの小さな画面から溢れる光が、二人の横になった絨毯の模様を照らし出す。中央に据えられた花のような模様の周囲を、流線型や涙型の模様が踊る。蔦のように模様同士が絡まり合っている。分かるか、と遊馬は模様の上に指を滑らせる。
「この模様は全部繋がってるんだぜ」
「ああ、分かる」
 アストラルは囁き声で返事を返し、自然と笑みの浮かんだ頬を絨毯に押しつけた。
 小さな音でテレビが喋る。新年をカウントダウンする極東地域の風景が中継で繋がれている。雪の降る景色の静けさ、ニューイヤー花火を待つ群衆のざわめき、鐘の音。
 今年のオレはこういう感じだった、と遊馬は模様をなぞる。デュエルして、色んな仲間が増えて、なによりお前と会って…。言いながら遊馬は両手で顔を覆い、一度しっかりと目を瞑ると、指の隙間からアストラルを見た。
 頭上から降るテレビの光をかつては透過させるだけだったその身体が、今は雪景色の光も、イルミネーションも、南国の月明かりも仄かに反射させて。
 アストラルが自分の真似をする。指の隙間からゆっくりと瞼の開くのが見える。金色の瞳が自分を映している。アストラルの瞳の中で遊馬は笑っている。
 テレビから聞こえる音声が変わった。歓声と、花火の破裂する音、ゆっくり打つ寺の鐘ではなく、盛大に鳴り響く教会の鐘の音。遊馬は掌をアストラルに向けた。アストラルも同じように真似る。遊馬はぎゅっとその手を繋ぐ。
「明けましておめでとう」
「…その言葉の効果は?」
「うーん、生まれ変わりかな」
「生まれ変わり…」
「今日はただの一日の終わりじゃないんだ。古い一年が終わって、新しい一年が来た。オレたちも今、真新しい生まれたばっかりの時間の中に入る時生まれ変わってんだよ」
「私の意識は連続している。変化した実感はない」
「気分の問題さ」
「それだけ?」
 無粋なことを言う目の前のこの謎の生命体と出会ったばかりのころは反発していた、殴ろうとしてすり抜けたこともあった、それがデュエル中に合体するようになって、触れ合えるようになって…。勿論、遊馬の意識も連続しているし記憶は持続している。が。
 遊馬は繋いでいた手を離すと、アストラルの額に触れた。模様の上をなぞり、深い夜空の色をしたストーンに辿り着く。
「なにも、感じないか?」
 アストラルが瞼を閉じる。遊馬は模様を辿って指を下ろし鼻先に、丘陵を滑り降りて唇のふくらみに至る。すると不意に唇が開いて、遊馬の指を挟み込む。かすかに瞼が開き、細められた目がしたり顔の笑みを刷く。
「新しい、君の、味か」
 指を挟んだまま囁くアストラルの瞳の奥に新しい光を認め、裸の肩が震える。そうさ、と小さく返した。裸の背中にテレビの雪が降る。くしゃみが二回。アストラルが毛皮を引き寄せ遊馬の身体を包み込む。遊馬はその中にアストラルも引っ張り込み、笑った。






年賀状小説 ニナさんへ