Party and party time and our only time クリスマスパーティーの盛り上がりも少し落ち着いてきて、皆がだらだらし始めた頃、アストラルがこっそり部屋を出て行こうとするがの目についた。自分以外の誰も、それに気づいていないらしい。ただ自分の行動はどうしても目立ってしまうから、遊馬は部屋を抜け出すのに少し苦労した。 一階の廊下は静かで寒い。上の階の賑やかさが天井から響いてくる。遊馬はトイレのドアをノックし、大丈夫か、と声をかけた。 「大丈夫…」 細い声が答えた。 「また我慢してたんだろ」 遊馬はドアにもたれかかり、廊下に座り込む。ひやりとした感触に、一瞬鳥肌が立つ。 「とても…楽しかったから。一緒にいられないのが勿体なくて…」 小さな声でアストラルが答えた。 好奇心旺盛なのは以前からだが、人間になってからは特に誰かと一緒にいることに喜びを覚えているらしい。それまでアストラルにとって、隣にいる人間は遊馬しかいなかったから、大勢で楽しむことは特別な喜びがあるのだ。 流す音は聞こえたが、アストラルはいつまで経っても出てこない。ああ、と遊馬は思った。 「待ってろ、な」 「…すまない」 ドアのすぐ向こうで消えそうな返事が聞こえた。 しかしアストラルの服は今まさにパーティーの行われている遊馬の部屋だ。遊馬はランドリーに向かうと、乾燥機の中を探った。自分のパンツしかない。 「…別に覗かれる訳じゃねえし」 言い訳するように遊馬は呟いた。 ドアの隙間からこれしかなかったと言って手渡すと、ありがとうとそれを掴むアストラルの細い指が見えた。遊馬はその手を掴む。 「…ヤじゃねえの?」 「いいや」 パンツを掴んだまま、アストラルの手が握り返す。 「君のだもの」 そう言いながらもトイレから出てきた時、アストラルはほんのりと顔を赤らめていた。手が落ち着かなさげにスカートを押さえる。遊馬はそれをちょっと捲った。 「…っ、何をっ」 「いや、うん、ごめん。さんきゅ」 「さんきゅ、ではない!」 怒った素振りだが拒絶はしない。二人は廊下に佇んだまま向かい合った。 「クリスマス…は、特別な日なのだな」 「うん」 「ケーキを食べ、歌を歌い、プレゼントを交換し…」 「そうだな」 「それだけか?」 視線が合う。息が止まる。 キスを…したい。勿論したい。二人きりの場所で。でもそれはトイレの前では駄目なのだ。廊下に立ったままでは駄目なのだ。クリスマスなのだから。 「みんなが帰ったらさ…」 遊馬が手を握るとアストラルは目を覗き込んで、うん、と返事する。 「今日は俺、屋根裏で寝ないから」 「今夜は雪になるらしい」 「うん…?」 「二人で寝たらきっと温かいと思う」 「ああ」 それまでおあずけ、だ。遊馬とアストラルは額をこつんと触れ合わせ、それから期待と今の自分たちの滑稽さに思わず笑いをこぼした。 本当は今すぐ夜になってくれたって構わないのだけれど、でもまだパーティーの〆のケーキが残っている。それを食べてから、だ。 「あら、あんたたち」 ちょうどケーキを運ぼうとしていた明里が廊下の二人を見つけた。 「運ぶの手伝ってよ。あ、トイレだったの? 手洗った?」 「ったりまえだろ!」 遊馬は赤くなって返事をする。その背後からアストラルがぼそっと、君はまだ手を洗っていないが、と言った。 「オレはパンツ触っただけじゃん」 「私の手を握った」 「じゃ、お前も洗い直しだろ」 結局二人並んで手を洗った。フライングのキスをしたくなるのは我慢。遊馬は濡れた手で狐を作り、アストラルの頬に触れる。アストラルは濡れた頬をちょっと撫で、その指先にキスをした。
2011.12.25 けろさんへ
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