まろどみと、もう一度




 すっかり眠り込んでしまったその柔らかな身体に触れ、遊馬はまた背筋が細かく震えるのを感じた。ちりちりと産毛が逆立ち、電気が火花を散らしながら走っているようなそんな感覚だった。
 とろりと柔らかな身体。確かに形は保っているのに、弾力もあるのに、それは優しく柔らかい。伝播した熱か生まれた熱か、先ほどまでの熱さはその表皮の下にまだ留まっていて、遊馬が手を滑らせると熱だけ掌の触れる下を追いかけて動くようだった。触れた部分はいっそうあたたかくなる。溶ける寸前のクリームに触れるような、あやうい心地でもあった。
 眠ってしまった、アストラルが寝ちゃった…。
 今までは遊馬が眠ってもアストラルが眠ることなどなかった。鍵の中にいない時は一晩中だって寝顔を見られていたのだろう。
 本当は遊馬も眠い。疲労が身体をゆらゆらと揺らめかし睡眠を欲している。しかし意識はラグの上に横たわったアストラルに集中していて、まるで生まれたての彼をずっと見守っているような、見守っていたいような気持ちなのだった。
 掌が熱を帯びる。いや、掌だけではなかった。遊馬は仰向けに眠るアストラルを横から抱くようにラグの上に伏せた。密着した身体がアストラルの中で揺らめく熱を感じ取る。あたたかい、心地良い。身体を擦り寄せるその仕草は動物じみている。遊馬は鼻の奥から唸る。
 それに呼応するようなアストラルの声。目覚めてはいない。しかし遊馬の身体はするりとその脚の間に迎え入れられた。そうなれば遊馬に遠慮というものはなくて、とにかくしたいから、とキスを繰り返す。
 腹の模様の上をなぞれば、唇にも優しい柔らかな感触。思わず口を開いて舐めた。味は、それが味なのかも分からない不思議な味。人の汗でもない、水でもない。冷たい夜の空気、早すぎる朝の露の香り、似たものを挙げればそんな感じだろうか。
 遊馬が舐めたり噛みついたりに夢中になる中、アストラルの唇はわずかにだらしなく開き、吐息の中に声が混じる。それが聞こえるたび遊馬は、アストラル、と呼び視線を走らせた。まだ眠っている。眠ってるけど、反応してる。胸の中央の模様にひときわ強く吸いつくと、ふわりと手が髪に触れてきた。それでもまだアストラルは眠っていた。しかし促すように遊馬を抱き寄せる。
「なぁ、いい?」
 遊馬は囁きかけたがそれは既に行為の最中で、しかしアストラルの身体は急く遊馬も優しく受け入れた。
「…ゆうま」
 アストラルの瞼が開く。遊馬は泣きそうになりながらその顔を見下ろす。アストラルの瞳は数秒中空を漂ったがすぐに遊馬を見つけて微笑んだ。
「遊馬」
 両腕が背中に回される。今夜覚えたばかりの仕草で、アストラルは優しく何度も遊馬の背中を撫でた。大丈夫、大丈夫だ遊馬。ようこそ。気持ちいい。ありがとう。好きだ。そんな思念が肌の熱になって溶け合い伝わる。
「アストラル、アストラル…!」
 遊馬はアストラルの名前ばかり呼ぶ。途中で呼吸が苦しくなり、大きな息をつく。不規則になるリズムを再び整えようとアストラルが腰を動かし、遊馬を抱き寄せる。頬を擦り寄せる。
「大丈夫、遊馬、遊馬…」
 慌てなくていい、私はここにいる、と優しい声が囁かれる。
 手に声になだめられながら遊馬はゆっくりとそれを続ける。
「…なあ」
「なんだ、遊馬」
「その、さ」
 どうなの、お前、と小声で尋ねる。
「気持ちとか、いいの?」
 心配をしてくれたのか。
 アストラルの手が腰に伸ばされる。熱の移った掌が優しく撫でる。
「君が気持ちいいと感じるほどに私も気持ちいい…。この気持ちよさは君がくれたものだ、遊馬」
 目はすっかり覚めていたのに夢見心地になる。
 気持ちいいよ、ようやくそう言葉に出すと、嬉しい、とアストラルが微笑んだ。






二度目の夜