幽囚の傀儡と愚者




 暗い水底へ逆さまになったまま沈み続ける。もう何日も何年も何百年も。その間に何度も死んで、何度も生まれて、何度も目覚めて、まだ底にたどり着かないことを知る。
 ――バクラ。
 了は遠い水面を見下ろす。金色に光る水面はおそらく自分の胸にかけられた千年リングで、それに向かって微笑みかけるバクラの邪に歪んだ笑みがかすかに映る。しかし、その嘲笑にも似た憎悪の感情は真っ直ぐに了の胸に届いた。
 ――バクラ…。
 彼は勝てない。何故なら、一人だからだ。多勢に無勢だと、そういうことを言っている訳ではない。ただ、彼は勝者となった者達と絆を共にし、笑みを交わしたから分かるのだ。
 ――馬鹿だなあ…。
 自らを邪神と名乗るなら、二千年の復讐を背負って世界を終わらせると豪語するのならば、自分ひとりの魂をこうしてただ閉じ込めるだけで、全く利用しないのは間違いだ。甘言を弄し、誑かし、罠に嵌めてで彼は自分を味方につけるべきだった。二千年の闇をひとりで歩いてきた自負か驕りか、信じることさえ煩わしいのか。宿主ひとり信じられないならば、それはなんと脆弱な闇だろう。何でも飲み込んでしまえばいい。
 ――僕は今、お前のことそんなに嫌いじゃないって思ってるんだけど…。
 それさえも怖かったのだろうか。こうやって闇の中に沈み込めることしか出来ないのは。水面の向こうから微笑むことしか出来ないのは。
 ――お前は負けるよ。
 次に目覚めた時には、全てが終わっているだろう。






誘う宿主(しかし手遅れ)