日常、デュエル、これが日常




《オールキャラと社長》

 デュエルの大会に珍しく海馬が顔を見せるらしい、というのでこぞって出かける。
「珍しーな、セトの奴。やんのか?」
「やんねーって言ってるけどよ、どうだかな」
 先頭を走る盗賊王と城之内が話をしている。後続は話すどころではない。バスを逃がした一行は、会場までダッシュしていた。
「開会式だけ顔出して後はふけるなんざ巫山戯た真似しやがったらタダじゃおかねー」
 城之内がぐんと速度を上げる。盗賊王が負けるかと加速する。
「…もう……ボクはもう…ダメだ……。みんな…さよなら……」
「諦めるんじゃねえよ宿主! 会場はもう見えてんだろうが」
「……無理だよ、足が……足が……もう限界なんだ……!」
「しょうがねええええ!」
 最後尾でバクラが了をおんぶして激走するという感動的場面が見られたが、本田はそっと太陽を仰ぎそれを見なかったことにした。

 珍しく、海馬のデュエルが見られた。それは大会の中でも全く想定外の出来事だった。城之内が乱入したのだ。エキシビジョンマッチ、という扱いになった。
「海馬ぁ! 次こそは顔を洗って待ってやがれ!」
「日本語もろくに喋れんようだな、凡骨め」
「じゃあ足だ!」
 子バクが宿主の足の影に隠れながら、恐る恐る海馬コーポレーション社長を仰ぎ、「くび、だ」と一言ツッコんだ。
「手だろうが足だろうがいいからよ、お前らちょっと集まれや」
 盗賊王が両手を広げ、ごちゃっと人間を掻き集める。海馬に城之内、挟まれるように弟のモクバ、妹の静香、首根っこを掴まれ不機嫌を通り越して無表情になりかけたバクラ、本田に御伽も忘れない。
「離さんかエジプト人!」
「おいおい、何度も教えてやったろうがセト様よぉ。盗賊王、バクラ様、だ」
「非ィ科学的だ!」
「聞き飽きたぜ?」
「はいはーい、みんなこっち向いて」
 巻き込まれなかった了と、足下の子バクが携帯電話を構えている。
「ちーず!」
 子バクが叫ぶと、何人かは「いーっ」と笑い、何人かは「チーズ?」と聞き返して妙な顔のまま写メに映った。
「これをこのまま遊戯くんに送信」
「…やめろ獏良了!」
「海馬くん、もっと泰然としてなきゃ。社長が乱れると社員も乱れるよ」
 了の声は、今にも語尾に音符がつきかねない明るさだ。
「アテムに、そう、しん!」
 子バクの声に海馬の顔は青を通り越して白くなる。
「返事が楽しみだなあ?」
 盗賊王が、がっちりと海馬の肩を抱いた。


《re: オールキャラと社長》

 キョアーオ!とモンスターの泣き声がして何かと思ったら子バクの携帯が光っている。
「それ、メール?」
 御伽がしゃがみこんで子バクに尋ねる。
「やどぬしが、作った」
「着信音?」
「そう」
 御伽はしゃがみ込んだまま、了を見上げる。
「獏良さ、そろそろ本気で手を組もうよ」
「またその話? こういうのって遊びでやるから本気になれるんだよ」
「なんのはなし?」
「御伽くんと一緒に仕事しようって話」
「……やどぬし、ひとりだち、するのか?」
「御伽くんと一緒だから、ふたりだち?」
「ふたりだち?」
「嘘。しないよ」
 子バクが携帯を開くと、またモンスターの声。
「クリボーね」
 今度は静香がしゃがみ込み子バクに話しかける。子バクは顔を赤くして、ただ頷いた。
「アテムからだろ。早く見せろよ」
 その上から城之内が覗き込む。子バクは小さな指でボタンを押し、平仮名で書かれた文面を読む。
「おれも、しょうげきの、にゅーすを、おとどけするぜ」
「衝撃のニュース?」
「てんぷるふぁいる」
「添付ファイルね」
 宿主が訂正する。添付された画像を見て、皆、首を傾げた。
「赤ちゃんね」
 静香が嬉しそうに言い、見せて、と子バクから携帯を受け取る。
「アテムさんと同じ肌の色。エジプトの赤ちゃんかしら」
 背後でなんだとおおおおおお!と絶叫が響いたが、あまりの取り乱しようが哀れだと思ったのか、盗賊王ががっちり羽交い締めにしている。
 了も少し驚いて覗き込む。
「赤ちゃん? アテムくんの子供?」
「うっそでえ! 聞いてねえよ!」
 城之内が叫んで、静香から携帯を受け取る。
「……って、この目つき、誰かに似てねえか」
「そう言えば…」
「見せろ!」
 とうとう盗賊王の腕から逃れた海馬が携帯をひったくった。
「……………」
「海馬、ライバルに先越されたからって嫉妬すんなよ」
「誰がだ!」
「……つうかよぉ」
 それまで黙っていたバクラが口を開く。
「そのガキ、イシュタールのじゃねえか?」
「…あ!」
 城之内が声を上げた。確かに、この目つきの悪さ、と思い至る。デュエルタワーでさんざんと言うほど見た顔に似ていた。
「赤ん坊の癖になんつー顔だよ」
「ってうか、マリクくんの子供?」
「いや、聞いてねえよなあ…」
「じゃあ、お姉さん?」
「イシズだと!?」
 静香の発した何気ない一言に、何故か海馬は異様なほど反応し、その夜、トイレの前で了と手を繋いだ子バクが「こわかった…」と思い出すほどの顔をしていた。
 その時、一瞬ギャルゲのオープニングが二小節ほど流れ、あ来た来た、と了が携帯を開く。
「あ、遊戯くん、またエジプトに来てるんだ」
「またかよ! もう住んじまうか、二人で日本に帰ってこいよ!」
 城之内が頬を膨らませる。
「衝撃のニュースの詳細。リシドさんの子供だって」
 家族写真、と添付された写真を見せる。
「奥さん、フツーの人っぽいな」
「いいじゃねえか、フツー、最高」
 城之内の台詞に、本田がしみじみと言う。
 イシュタール家の家族写真。真ん中で、リシドの子供を抱いているのはマリクだった。
「よかったな、王サマの子供じゃなくてよ」
 盗賊王が、海馬に向かって言った。彼の手に握られた携帯には、先程の狼狽ぶりから現在の石化ぶりまでじっくりムービーに収められていた。






ひそかにセトイシ推奨