相応しき9月2日




 ぐるりと瞼の裏から視界を引っ繰り返したかのように青空が広がって、急に、己の意志とは関係無く目覚めたのが解る。ソファから滑り落ちた身体の上には昨日、夏の終わった、しかしまだまだ白い日差しが射していて、何度か瞬きをし、その強烈な残像に軽い目眩と既視感を覚える。
 カレンダーは昨日捲られた。新学期が始まっていた。今日は休日ではなく、時間は真昼だった。最後の記憶は、何かを貪るようにゲームのコントローラーを握る宿主の背中で、それが真夜中のことだった。
 首を巡らせる。テレビ画面には(ハイティーン、一人暮らし、法的力を何ら持たないたかがガキの割には合わない大画面。しかしその経済力こそ、我が身の自由を許す手助けになることは皮肉に感じなくもない)セーブさえされていない、戦闘途中の様子が映っている。こちらのターン、だ。
 軋む身体を(起こす事は無理だった)そのままソファからずり落とし、頭痛に顔を顰める。体調不良。睡眠不足。栄養も失調気味だ。テーブルの上に開けたスナック菓子は昨日の朝のものだった。
 (こいつは解っていない。)オレは思う。コントローラーを取り上げ、敵を倒す。(この剣もオレが手に入れた。)セーブデータがいつの間にか記憶にない所まで進んでいるのが気に入らないのか。いつの間にか終わった夏休みがそんなに惜しいのか。時なんざ、長けりゃいいってもんじゃねえ。
 レベルが上がる。セーブ。薬を探した。空きっ腹だが大量の水とともに白い錠剤を腹の中に収め、ベッドに乱暴に身体を横たえる。
 頭が痛い。(オレの身体じゃない。)この否定は、しかし、既に胸に痛みさえ起こさない。(宿主の身体だ。だから、何だってんだ?)嘘のようだが(オレはこの身体が好きだ)。まるで嘘のようだが(お前のことを大事だと口に出せば、お前はオレに唾を吐きかけるだろうな、宿主)。まったく、全てが相応しい。生の泥沼、這いずるような感覚。周りをにじり、踏みつけて、勝手気儘な九月二日を、宿酔のような気持ち悪さで過ごせば、笑いさえ込み上げる。






2009.8.24