プレゼントフォーミー! プレゼントフォーユー! 水が心地良い冷たさになった。洗い物はまだ半分残っていたが、了は流れる水に手をつけたままシンクの前でぼうっとしてしまった。 今年は買ったのはケーキだけだった。唐揚げは自分が挑戦すると盗賊王が宣言した。結果、テーブルの上に並んでいたのはトンカツだったが、思いの外美味かったので文句はない。ケーキは均等に分け、これでおしまいかと思った所にバクラが用意していたクロカンブッシュが届いて、四人とも別腹とばかりに貪るように食べた。 リビングでは盗賊王が膝に子バクを抱いてミステリ系の古いゲームをやっている。甘いケーキの余韻、くちくなった腹と、大声で年甲斐もなくハッピーバースデーを歌った後の興奮、冷房の涼しい風が、満足そうな二人の髪を時々揺らす。 「宿主」 隣からビールが差し出される。 「ぼっとしてんぞ。水分取れ」 グラスを差し出しているのはバクラだった。 「あ…りがと」 了は一口飲むと、ビールをバクラに返した。反射で手に取ったバクラは、直後に躊躇する。了は笑う。 「いいよ、飲んでも。今更だろ」 しかし結局バクラは、飲めよ、とまな板の上にグラスを置いた。 バクラは隣に並んで、洗い上がった皿を拭き始めた。 二人は小声で話す。 「…誕生日プレゼント、うけた」 「ああ」 「全員カードパックだとは思わなかった」 「チビのは当たりだったな」 「うん」 噂をすれば、子バクが後ろから飛んでくる。 「やどぬし。にいちゃん。ゲーム終わった」 「え? もう?」 振り向くと、確かに盗賊王がエンドロールの画面を眺めている。 「早くない?」 「おおさかにいって、しあわせになった」 「……ああ」 死ななかったんだね、と了は呟いた。誕生日にこそ平安を。 結局、盗賊王と子バクはマリオカートを始める。今度は子バクも大人しく盗賊王の膝の上にはおらず、歓声を上げて、コントローラーを操りながら動き回る。 ようやく洗い物が終わったと思うと、了は米を研ぎ始める。バクラが言う。 「今日くらい、いいだろ」 「よくないよ。盗賊王は明日も仕事だし」 「そういうことしてっと、誕生日らしくねーな」 「そう?」 了は米を研ぎながら笑った。 「ボクはね、ご馳走食べて、みんなと騒いで、賑やかなまま当たり前のことするって、凄く特別なことだと思うよ。誕生日にしか出来ない」 ボウルの中で、流水に米が舞う。 「いつものことより、全部、気持ちいいんだ」 言って聞かせるというより、独り言のように思いを口にしただけだった。しかしバクラが息を詰めて自分の横顔を見ているのが解った。了は少しだけ横を向いた。バクラの顔は少しだけ近づいて、頬にキスを落とした。 「…続きは明日しようか」 「明日かよ」 「明日。バイト休みでしょ?」 「…おう」 「チビちゃんは明日、遊戯くんと約束があるんだ」 「…………」 バクラは小さく、しゃーねーなと呟き、せめてとばかり了の唇にキスをする。 すると、後ろから口笛を鳴らされた。 「おまえら、夫婦みたいなさそい方だな!」 二人でぎょっとして振り向くと、仁王立ちの盗賊王と子バクがからからと笑っていた。
子バクは誘うの意味を…分かってない…はず…だ…!
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