ここでの4ばくはBATTERY+様の「ばくらけ」を念頭に書かれています。
こちらの年賀状企画に対し、一ファンとしてお送りした年賀状小説です。
季節はずれですが、お楽しみいただけましたら。








「おれしゃまは1月1日0時0分0秒、地球に存在しないんだじぇ」
 子ばくは、常なら同じ年頃の子どもよりも道理の分かった子だが「きしゃまはマンションの6階に閉じ込められてるから、おれしゃまみたいなことは出来ないんだじぇ」と某家の舌っ足らずな六歳児が追加攻撃したものだから、カチンときたらしい。
「初詣に行く」
 珍しく頑固に言い張った。
 獏良了は正直な所、冬の寒い日はコタツに入って動きたくなかったし、初詣と言えば行くまでは寒く、人ごみに押し合いへし合いされ、人ごみを抜けたらまた寒いという、非生産的・非効率的・非合理的、三拍子の揃った代物に思えたので行きたくないなあ、と思ったが、子バクが我儘を言うことは珍しい。思い返せば子どもの日も、結局望みどおりしてやれなかったのだから、ここは一つ動いてやるのが兄の務めだろうと考えた。
「で、何だよ“地球に存在しない”ってのは」
 呆れたように言うのは三男で、文句を言いながらも着々と外行きの準備を進めていて、あれこいつの黒のコートと僕の上着ってお揃いだったけ?と訝しげな事実に気づくが、見れば長兄と末っ子もお揃いの赤い半纏を着ているので不問に付しつつ。
「ちょうど日付が変わる瞬間にジャンプして、地上に存在しないっていうんだよ」
「ガキかよ」
「だから子どもの話なんだよ」
 冷たい夜気。風は凪いでいる。子ばくは白い息を吐きながらずんずん進む。いつもなら盗賊王の頭にのっている所だが、今夜という今夜はしっかり地上に存在して、そしてしっかり地上から飛ばないといけない。
「お父さんったら、頭さみしい?」
 了は、さっきから何度も手を後頭部に持って行く長兄に尋ねる。盗賊王は、何だその日本語それとその呼び方やめろ、と言うが肩から頭にかけてが淋しいことは否定しない。仕様がないなあ淋しがりや(のお父さん)という言葉は飲み込んで、了は自分のマフラーを盗賊王の首に巻き付ける。それを見たバクラが黙って自分の首からマフラーを外し、風邪ひくだろーが馬鹿、とわざわざ悪態を吐きながら了の首にそれを巻いてやる。
 神社に近づくにつれ当然の如く道は混み、人は押し合いへし合いで、神社の鳥居をくぐる遙か手前で1月1日0時0分0秒を過ぎてしまい、腕時計で時間を確認した了は子ばくが泣くかな、と思って見下ろすと、当の本人は盗賊王の手を握りしめたままもたれかかるようにうとうとしている。
 眠ってしまった子ばくを盗賊王がおんぶし、のろのろと進む行列に乗り、ようやく初詣をすませる。鈴を鳴らした時だけ子ばくが目を覚まし夢うつつに手を打つのが微笑ましかった。
 帰りの道々に並んだ屋台で子ばくが起きたときのお土産に綿菓子を買い、たこ焼きを買い、コンビニでシュークリームを買い、マンションへの帰路を辿ると、凪いだ空の上に月が昇っているのが見える。
 ふと思い立ち了は「手を繋いで」と両手を広げる。子ばくを背負った盗賊王はニヤリと笑い、了に腕を組ませる。しゃーねーなと言いながらバクラが手を繋ぐ。了は腕時計を見ながら、かけ声をかける。
「さん、に、いちっ!」
 ジャンプ。
 1月1日1時1分1秒、ばくらけの四人は地球に存在しなかった。