ティーンエイジャー・オン・ザ・ラブ




 チロルチョコを手当たり次第に買ってコンビニの袋の中でシャッフルしまくって、パッケージを見ずに食べてその味を当てていたら、当たったけど切ない抹茶味。ツナはきなこもちがいいーと涙目で我儘を言い、山本が次頑張れよと笑う。獄寺がちょっと立ち止まって、十代目、と囁いて、何、と涙目のまま立ち止まり、山本やリボーンが数歩先を行ってしまったらキスと一緒に抹茶味を奪われた。
「……舌っ」
「すみません」
 笑っている獄寺は反省していない。そんな獄寺がツナは好きだ。ツナのことになると何でもかんでもガチガチでテンプレートな幸福像を描くことしかしなかった獄寺が自分の強気を見せたり、我儘を言ったり、本音で少しずつ擦り寄っていく自分達が本当に十代だと思って。ボンゴレリングとか、十代目とか、そんなものがあったってやっぱり自分達は日本でバカらしくバカをやる中学生なんだから、そんな中学生を楽しみたい。
 でも舌を入れるキスは、中学生にしては進みすぎだと思わなくもない。
 でもそういういやらしいキスも、ツナにとっては獄寺が不意にくれるプレゼントみたいなもので、獄寺はそういうのを時々、不意にくれる。
 何週間か前も、多分急に暖かくなった日のことで、山本が早速半袖を着て歩いていた。前をリボーン(パオパオ導師と名乗っていたけど)と歩く笹川了平は逆に年がら年中パーカーで、ツナは長袖のシャツが少し肌寒い気がしていた。だから山本の腕が自分の肩を抱き寄せているので、ちょうどよかった。
 不思議な日だった。五人ともそれぞればらばらのことを考えていて、ばらばらのことを喋っているのに、離れもせず商店街を歩いていて、もう夕飯時が近いと言うのに誰も家に帰ろうともしなかった。だからと言ってマックに入ろうともしなくて、ただただ歩いていて、そう、獄寺はツナの数歩前を歩いていて、山本がツナの肩に手をかけているのを咎めようともしなかった。いつもなら、ちょっとしたことでも食って掛かるのに。
 獄寺の右手には赤いバラの花束が握られていて、夕方合流した時は持っていなかったから、この商店街を歩くうちに買ったんだろう。いつの間に買ったのか。一体、何のためなのか。その花束に気づいた瞬間、彼がそれをくれるのではないかと思ったツナは顔を赤くしたが、獄寺はまったくそんなそぶりを見せなくて、ツナはオレ何考えてんだろうナチュラルに、と内心恥ずかしくなる。
 山本の喋っていることは半分耳に届いていなくて、ただその声が聞こえることと、肩に乗せられた手に安心する。俺たち、友達でもいいじゃないか。
 でも次の瞬間、心の中で呟いたそれが聞こえたかのように獄寺がくるりと振り返って、口元は笑って、目は真っ直ぐにツナを見つめて、真っ直ぐに立つ。ツナはその視線に刺されたように立ち止まって、一歩送れて隣の山本が立ち止まり、肩から手が離れる。
「十代目」
 獄寺の手が真っ赤なバラの花束を差し出す。
「プレゼントです」
 ぽかんとしてしまった沢田は何を言ってるんだろう、と獄寺の目を見つめ返すだけだ。何故か隣で山本が笑う。背中を叩き、
「ほら、ツナ」
 と促す。
「え…何で」
「理由がないプレゼントはいけませんか?」
「いけなく、ないけど。でも何で」
「好きだからですよ」
 通りの向こう、人ごみの中に笹川とリボーンの背中が見えなくなる。山本は軽くツナの肩を突き放すように二人から離れ、いなくなる。
「…何だかよく分からないんだけど」
「オレにも、何がなんだか」
「何それ」
「独占したいけど、余裕も見せたくって、優越も見せたくなったんです。駄目ですか」
「…ちょっと意味分かんないなあ」
 ツナは花束を受け取り、花びらを指先でいじる。
「オレが十代目を好きってことです」
「だから…さあ、オレがそれ分かってるよとか言ったらもっと痛いじゃん」
「痛いですか?」
 ツナは黙って獄寺の脇腹に拳を入れる。獄寺は利かない顔をして、さり気なくツナの手を取り、歩き出した。
「あのさ、獄寺くん」
「お叱りは後で受けますので」
「怒らないからさ、獄寺くんち行けない?」
 獄寺が少し驚いてこちらを見る。沢田は赤くなった頬を花束に埋めるようにして顔を背けた。
「オレだって男だからさ、好きなこから嬉しいことされたらさ、それなりにさ」
 ツナの言葉に呼応するように獄寺が走り出す。ツナも走りながら、花束で獄寺の背中を殴る。
「……オレだって好きだとか言いたいんだよ!」
「ありがとうございます!」
 二人が駆け抜けた道に点々とバラの花びらが散る。
「祝福の鐘でも鳴らしてやんなきゃな」
 マックの二階からそれを見下ろしながら山本が呟く。
「『あの鐘を鳴らすのはあなた』ならオレが歌ってやる!」
「すげえレパートリーっすね」
「オレは愛燦々が熱唱できるぞ」
「お前のレパートリーもすげーな小僧」
 その後、笹川、リボーンを伴ってカラオケに行くことはしなかったが、笹川は道々歌いながら歩き、非常に注目を集めた。





何故かこのネタを漫画にしようとしていた。