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 机の上に紙コップが載っている。コップの底から糸が伸びていて、窓の外に続いている。外はよく晴れた日曜の午後で、耳を澄ませば昼食時の賑やかなざわめきが聞こえてきそうだった。
 沢田は紙コップを耳に当てる。糸がぴん、と張る。くぐもった小さな声で呼ばれている。
 るるるるる。るるるるる。
 糸を二、三度引っ張る。音が止む。
 こんにちは、あなたはボンゴレ十代目ですか?
 沢田は紙コップを耳から離し、口元に寄せる。
「そうだよ。どうぞ」
 オレは善良なジェノバ市民です。どうぞ。
「善良なジェノバ市民さん。何の用?」
 あなたにお礼を言いたくて、お電話しました。どうぞ。
「お礼? どうぞ」
 ありがとう! みんな、あなたが大好きですよ!
 その声は糸を伝って紙コップを震わせる声と一緒に、風に乗って沢田の鼓膜を震わせた。沢田は紙コップを握り締め、窓辺に駆け寄る。
 窓の下に、何故かファミリーが勢揃いしている。その真ん中で、獄寺が紙コップをマイクのように持ち、真っ赤な顔で叫んでいる。
「あなたが大好きです! 十代目!」
 沢田はくしゃくしゃになってしまった紙コップを胸に抱いて、窓枠に立った。急にファミリーが静まりかえる。
「オレも!」
 沢田が飛び降りる。歓声のような悲鳴のような叫び声が響き渡る。差し伸ばされる手、手、手。リボーンさえ、慌て顔で手を差し伸べている。そして自分を抱き留めようとする、獄寺の両手。沢田は笑う。日曜日の青空に、くしゃくしゃの紙コップと、二人を繋ぐ糸が舞う。