少年達の共通点




 シャワーの冷たい雫を垂らしながらパンツ一枚で部屋の中をうろうろしていると、サン
ダルが片方なくなっているのに気づいた。
 ベッド脇にそれは裏返って転がっていた。ランボは爪先で器用にそれを引っくり返すと、
そのまま片足に引っ掛け、対の片割れを探す。しかし床の上に見慣れたそれはない。
 ランボは床の上に膝をつき、ベッドの下を覗き込む。さっきまで二人分の体重を受け不
愉快なほどに軋んでいたベッドは、お前たちの上下運動が原因だとばかりに埃を撒き散ら
しており、頭を突っ込んだ途端、続けざまのくしゃみに襲われた。気を取り直し、鼻を摘
んで覗き込むが、その影はない。
 狭い部屋の真ん中に立ち尽くし、ランボはいつも眠そうに半分閉じた目を更に細め、ド
アを睨む。リボーンは例の如く、肉欲さえ処理できれば後は用なしとばかりに、既に部屋
にはいなかった。ランボは乱暴に窓を押し上げ、鎧戸を開け広げた。窓の下に見える街は
夜に向かって動き出しており、流れ込む闇の中に一つ二つと黄色い明かりが灯り始める。
そのどこにも、あの黒い中折れ帽の揺れるのは見えなかった。
 空が海から紫色に染まっている。澄んだ群青ではなく、空がぼんやり光って見える夜は
雨が来る。このぼろホテルからボヴィーノのアジトまでは遠い。勿論だ、そんな、アジト
のすぐ側で逢引なんてできやしない。馴染みの女達がいる飲み屋街までは遠くないが。ラ
ンボは帽子の庇の下から凍てつく視線を投げて寄越した男を思い出す。嫉妬されるのは気
持ちいい。しかし嫉妬には暴力がつきものだ。今度あんなことされたら、絶対女性用ナプ
キンを買う羽目になる。
 窓にぐったりともたれ溜息をつく。運ばれてくる風に懐かしい匂いがまじっている。ほ
ら、雨はもうすぐそこだ。サンダルも片方ない。傘もない。家は遠い。
「ここにいろってことか?」
 馬鹿みたいに幼稚な独占欲じゃないか。ナンバーワンヒットマンが子供じゃあるまいし。
 そこでランボは眉をひそめた。確かにリボーンは子供なのだ。自分より四つ年下の。
「…いいか、リボーン」
 ランボは残った片方のサンダルを右手に肩をならす。
「解ってて付き合ってやるのが、年上の余裕なんだよ!」
 大きく振りかぶって思い切り投げたサンダルは、ひゅっと雨の匂いのする風をかき回し
て夜の空に放り出される。
「ざまあみろ」
 ランボは電話を取り上げるとルームサービスを頼んだ。全部リボーンにツケてやるつも
りだった。甘いものばかりのメニューも、その行動そのものこそが…。
 否、厳しい指摘はできない。電話を片手にベッドに腰かけ、足をぶらつかせる様はあま
りにも楽しそうで。
「ざまあみろ」
 その声があまりにも楽しそうで。








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