真っ直ぐな迷路／囚われた疲れた、と思うと、オレンジ色の灯りの下、動けなくなる。 電球は多分一週間ほど前から奇妙な色を発していて、入り口のスイッチを押す度、取り 替えようと頭の隅に思うものの、ヤサへ帰るのは眠るため、どうせ消えてしまう灯りだか ら、アルコホルを一杯ひっかけ、歯を磨いて、横になれば忘れることだった。が、今夜は そのオレンジ色の灯りの下、床の上に横になってしまったら、もう指の一本も持ち上がら ない。疲れた。身体が磁石のように床に引っ付いた。 リボーンと言葉を交わすのは苦痛だ。バーに入ろうとしたところ、襟首を捕まれた。息 の詰まった一瞬に囁かれる。 「来い」 その一言が耳から吹き込まれ、どの回路を通うようになったのかはランボもとうに知る ところで、最近、リボーンに向かって銃を抜いていないとか、手榴弾の手触りが懐かしい とか、角を今日は持ってきていないとか。繋がり難い、リボーンを殺すという回路。それ だけで世界の回っていた十年前が懐かしいなどと言い出したら、情けなさに泣けてきそう だったので、リボーンのヤサに入るや、勝手なことをするなと殴られつつワインを一本空 け、自分からリボーンの上に跨ってみる。自分から率先して情けなさを押し隠し、快楽に 耽れば楽、ということはないが、自棄くそ、酔い任せの言い訳。リボーンは感づいている らしく、面白くなさそうに突き上げ、ランボがあんあんと声を上げるのに協力してくれた のは珍しく、お優しいことだ。 「何が気に入らない」 「別に」 「何が気に入らないんだ」 達する直前のものをむんずと捕まれ、調子を崩した。折角全速力で走っていたものが転 びかけたようで、もどかしい。返事をしろということか。 「全部気に入らない」 交接したそこへ手を這わせる。自分の中に埋め込まれたリボーンの一部に触れる。 「全部」 その瞬間でさえ、リボーンを殺そうと思わなかった。 リボーンは無理矢理、ランボを四つん這いにし、後ろから乱暴に攻め立てたが、それで 関係が修復するはずもない。そういう虚しさはさておいて、ランボはあんあんと声を上げ、 尻を叩かれれば涙を流して、犬のように犯される。そうだよ、喋るな、リボーン。 なのに、そのまま終わらない。 「これが嫌なら、死ね」 「え？」 「俺の愛人が嫌なら、さっさと死ね」 「ひどいね、俺がお前を殺すっていう選択肢はないわけ」 「その気もねーくせに」 言われた瞬間、膝が落ちる。リボーンは乱暴に腰を抱え上げると、再びランボの尻を叩 く。それでも力が入らないので、仕方なしという風に足を抱え上げられる。 「殺せる…」 「試してみろよ」 リボーンの目を見つめる。黒い瞳が自分を見据えている。奴が本当のターゲットだった ころ、奴は自分のことなんか一瞥たりとも見はしなかった。 セックスの最中に吐いたのは初めてだった。吐瀉物で汚れたシーツと一緒にバスルーム にぶち込まれ、知らぬ間にリボーンはヤサを出て行っていた。ランボはバスルームでシャ ワーに打たれながら、呆然とシーツの上の吐瀉物が流されてゆくのを見ていた。 リボーンを倒し、ボヴィーノのボスになる。このごくごく簡単な回路が全てだった。死 ね、リボーン！ 銃、ナイフ、手榴弾、ミサイルランチャー、決めは電撃角。この技の名 前を言うときは、目的達成の喜びが目の前にあると身体が震えたものだ。そして一瞬後に はその震えが悔しさと恐怖の震えに変わるのだった。リボーンはランボを痛めつけ、痛め つけて愛人にした。屈辱。復讐心。怒りに燃えて行為の最中も銃を手放さなかったのは、 いつの話だ。愛人に慣れてしまったのは、いつだ。 回路が歪む。俺が歪む。再び込み上げた嘔吐感を堪えてバスルームを飛び出る。窓を叩 き割り、鋭い破片を拾ってから、窓の外の非常梯子を掴んで路地に下りる。 「死ね、リボーン！」 夜に溶けそうな真っ黒の後姿に切りかかると、鋭い音がして銃でそれを受け止められた と知った。 「…その調子だ」 そしてキス。待てよ、歪んでるのはお前の方じゃないか？ 裏路地の汚い壁に背中を押し付けながら一発。リボーンの息が頬にかかり、興奮してる、 こいつの方が歪んでる、と思いつつ、泣かされながら二度射精した自分の歪みも相当で、 初期の回路に完全に還れるかどうか分からない。 オレンジ色の灯りを見つめながら、リボーンのことばかり考えていると、セックスの記 憶に時折、身体が疼く。しかし、新たに火種をつける気もないし、リボーンのことを思う だけでいい加減気持ちが悪くなってきた。床の上の身体は重くなり、その疼きも次第、次 第にぼんやりとなって、頭を巡るのは、疲れた、の一言。セックスにも、考えることにも 疲れた。やはりヒットマンはヒットマンらしく銃口で語り合うべきだということだ。 「ああ、殺したい」 オレンジ色の灯りが瞬く。 |