二人だけの優しい孤独/それでも





 初秋の冷たい風が窓から吹き込む。獄寺が浴室をノックすると、やはり彼のボスは素裸
のまま水滴を滴らせてその脇を通り過ぎた。四度、この季節を逸して、ようやくこの城に
来ることができた。朝夕には見下ろす街の霞の海に沈む様を眺めることのできる、山腹の
城。葉や樹木の囁き以外、自分と獄寺の声しか聞こえない、この寂しい城。
「で、リボーンはどうだって?」
 沢田は窓から身を乗り出し徐々に日の落ち始めた外を眺める。
「今ローマを放っておくわけには、と電話口の話です」
 獄寺は大きなバスタオルを広げ、沢田の肩にかけながら言う。
「明後日にはケンコー骨が迎えにきます。そうしたら一緒に戻って…」
「休暇は終わり、か」
 あっと言う間だな、と言いながら沢田は自分で身体を拭った。濡れたバスタオルを獄寺
は受け取る。
「五年待って、三日か…」
 沢田は思い切りベッドに仰向けに転がる。身体は柔らかな羽の布団に沈み込み、天蓋が
風で微かに揺れた。
 獄寺が枕元にやってきて見下ろしている。眉をハの字に下げている。
「風邪、引きますよ」
「平気だって」
「シャマルは呼びませんからね、注射を打たれますよ」
「平気さ、獄寺くんが何とかしてくれるだろ」
「何とか、ですか」
「そうさ」
 では遠慮なく、と獄寺はベッドに膝を乗せた。大きく手を広げ、柔らかな羽根布団で沢
田の身体をくるむ。そのまま沢田の身体を抱き締めて倒れこむと、ベッドは大きく揺れた。
沢田の笑い声が聞こえた。獄寺も笑う。笑いながら沢田は布団から顔を出した。少し顔が
赤くなっていた。不意に獄寺を見上げる沢田の顔が静まり返った。獄寺も笑うのをやめた。
「寝よう」
 言って沢田は小さく付け加えた。
「少し」
「ええ…」
 しかしお互いに目を見交わしたまま、瞼は閉じようとしない。そっと、音を立てるのを
恐れるかのようにそっと獄寺の手が動いた。指が微かに震えて沢田の下唇に触れた。触れ
た瞬間、逃げようとしたが、沢田の手が素早く布団から飛び出てその手を掴んだ。そして
沢田は小さく息を吐くと、獄寺の指の腹に唇で触れた。
「たまに」
 沢田の声は掠れる。
「歳をとってよかったとも思うし、子供のままでよかったとも思う…」
 獄寺が痛みに耐えるような顔をして、自分の唇を沢田の唇に触れさせた。
 十五年という年月はとりすぎたものなのか。星霜の前で人はくしゃみすることしかでき
ない。獄寺は震える沢田の身体を抱き締め、目を瞑った。








元web拍手お礼小話。
とも様よりリクエスト、「リボーンで獄ツナの15年後で幸せ風味」でした。
ありがとうございました!


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