ムーンリヴァー月の光を集めて川にしてあなたに捧げます。本気です。嘘じゃありません。俺の目を見てください。間近で見てください。俺の目は灰色なので、月の表面を反射する光をうまく集めるんです。そしたら、十代目、あなたはきっと溺れますよ。でも大丈夫です。俺が助けますから。一緒に溺れていくから怖くありませんよ。川の水が肺を満たしても、俺たちの魂はつながったまま恐怖から逃げられますよ。俺が助けます。 「…優しい人だね、獄寺くん」 優しいんじゃありません。あなたを思って全てを行うばかりです。全部それなんです。ほら、カーテンを開けましたよ。俺の目を見てください。月の光を集めて川にして、十代目に全部あげます。全部あなたのものです。 「ありがとう、獄寺くん」 息苦しいですか。 「苦しくないよ」 怖くないですか。 「全然」 今、何て言ったんですか。聞こえません。十代目。 「気持ちいいって言ったんだ」 気持ちいい、ですか。 「すごく、気持ちいいよ」 枕元にカプセルの空がある。薬を飲み干したあとのグラスが床に転がっている。沢田は唇の端から水をこぼしながら顔を上げた。獄寺の唇も水に濡れている。沢田はもう一度かがみこみ、獄寺の唇に自分の唇を触れさせた。濡れた唇はなめらかで、つるりと滑った。 「感染る」 珍しく不機嫌そうな口調で一言、山本が言った。 「感染っても、まあ、いい」 「よくねえよ」 「じゃあ、俺には山本が飲ませるって、どう?」 薄い黄色のカプセルを弾いてみせる。 「…獄寺くん、変なの」 「………」 「俺も、変なの。普通なら鳥肌立つのに」 ゴツ、ゴツ、と重たい足音を立てて、山本が近づき、ぐいと沢田の顔を持ち上げた。水の湿り気が、山本に奪われる。唇はしっかりと重なる。 まばたきをして、沢田は言った。 「感染る」 「感染らば感染れだ」 そして眠る獄寺の上に覆い被さり、キスをした。 |