青く消える放課後




 愛情のないような無機質なアスファルトの道と石畳の路地の交差する狭い交差点の上で信号が点滅していて、ランボは交差する点のちょうど真ん中で点滅する黄色い光に正面から照らされながら奇妙な懐かしさの源を思い出している。
 目蓋の裏に緑から青の残像。誰もいない校舎はコンクリートで出来ていて、ピッツァの匂いがしなくて、ああ日本なんだと思う。背の低いランボは一つ一つ教室の扉を開けていって、「だーれだ!」と大声を出すが、答える人影はない。次の扉も、次の扉も。無人の教室はほとんどが暗い影に塗りつぶされていて、その向こうに青く沈み始めた窓がある。青く光っている、とランボは思う。夜になる前の青が世界で一番明るいのだと、ランボだけが知っているのだと思う。だから自分は偉いし、守護者にも選ばれるし、ボヴィーノのボスにも褒められる。
 でも、あの日、オレは帰り道が分からなくなった。どこから階段を上ったのか、どの階段を下りればいいのか。冷たいコンクリートの壁に手をついて歩きながらわんわん泣いた。
 ランボは目蓋を開く。青い残像と黄色い光が交互に世界を染める。黄色い光の合間に見える石畳の路地の青は明るく、夜がすぐそこまで迫っている。
「あの時もオレを迎えにきたよな、リボーン」
「…何の話だ」
 昔話だよ、と手にしていたワインを押し付けると、軽く品定めをしたリボーンが悪くないと呟き、昔話をするにはもってこいの安宿に向かって歩き出す。
「リボーン」
 ランボはリボーンの背中に話しかける。
「あの時、オレはお前とセックスするようになるなんて思わなかったけど、多分、あの頃からお前のこと好きだったよ」
「初恋は成就しねーぞ」
「初恋かどうかは別の話さ」
 瞬きをすると青い光の中に黒いシルエットが浮かぶ。リボーン。その姿を間違えない。十年経って、赤ん坊から大人のように体格はまるで変わってしまったのに、変わらない。
 リボーンは振り向き、何にやついてやがる、と顔をしかめた。