飛行機に乗って告白




「ハル、料理教えてよ」
「はひ?」
 専用ジェットの機内で、チーズを囓りながら沢田が言った。
「日本に着いたら」
「何でですか。ツナさん、まさか一人暮らしですか? だったらハルも一緒に…」
「いや、そーゆー必要に迫られた料理じゃなくてさ。暇つぶし?」
「暇つぶしで料理ですか? ツナさんってそんなキャラでしたっけ」
 ゲームに飽きたんですか、と尋ねると、沢田は少し笑って、飽きたかもな、と呟いた。
「マネーゲームとか、パワーゲームとか」
「…難しい話、ハルは解らないですよ」
「うん。だからさ、料理」
 ハルは溜息を吐き、手の中の緑茶に口をつけながら上目遣いに沢田を見上げた。
「いいですよ。ツナさんのお願いなら」
「……ハル、そういう目、他の奴にもしてる?」
「嫉妬ですかっ?」
「違う。でもそういうの多分勘違いされる」
「勘違いしてくれました」
「オレはハルのこと知ってるもん。勘違いしない」
 沢田は自分の分の緑茶を一口飲み、
「ハルはハルだ。だからイタリアにまで連れて行ったし、一時帰国にも連れて帰る」
「……ツナさん! ツナさんは早くハルと結婚してくれるべきだと思います!」
「それはめんどい」
「いけず! ツナさんのいけずー!」
 ハルの拳は本気ではなかったが、少し強く、少し痛かった。だから沢田は少し笑った。
「ハル、一ヶ月って長いと思うか?」
「…んー、普通くらいですか?」
「普通、ね」
 沢田は小さく呟く。一ヶ月、獄寺くんに会えない。
 あっ、と小さく息を飲んで、ハルは黙り込んだ。
 二人はしばらく黙って緑茶をすすった。
「あの…料理って…」
「女々しい?」
「そういうんじゃないですけど…」
 ハルは湯飲みを置くと沢田に向き直った。
「あのっ、あのですね、ツナさん、今だけ、今だけ、ハル……わたし、ツナさんの奥さんしていいですか?」
「……は?」
「ツナさん知ってるでしょうけど、わたし、十年もツナさん好きなんですよ。ツナさんのこと解っちゃうんですよ。だから、あの、今だけ、熟年夫婦みたいなこと…」
「ああ…」
 沢田の腕が伸び、言葉が途中のまま途切れたハルの頭を抱いた。
「こんな?」
 前髪が掻き上げられ、額の、少し上にキスが落ちる。
「そっ、そうです、こんな……」
「熟年夫婦、みたいな?」
「そうです、ツナさん」
 ハルの細い手が沢田のシャツの胸を掴む。
「だっ、旦那サマのお願いなら、しょうがないですね! 料理を教えてあげるのも、奥様の勤めですから!」
「ん、頼むよ、バンビーノ」
 ぶはっ、とハルは吹いた。
 ハルは一頻り笑い、多分五分くらい大笑いし、その日一日、思い出しては笑い出した。
 しかし沢田は自分の科白を後悔もしていないし、反省もしていない。





「飛行機に乗って自殺」っていうピアノ曲を見かけたので、タイトルをもじってから思いつきだけで書いた。