家庭教師ヒットマンREBORN! 獄ツナ
元web拍手小話
 愛しい人と一夜ベッドを共にすることが寝るということならば、獄寺はツ
ナと寝たし、愛しい人の身体を愛情もってほしいままにすることが抱くとい
うことならば、獄寺はツナを抱いたのだ。
 一晩、その腕を枕に眠るツナの寝顔を見ていた。その寝息にあわせ安らか
な呼吸を繰り返すうち、夜が明けた。闇が一枚一枚剥ぎ取られ、薄青い明け
方の闇の中に、ツナの脱ぎ散らかした硝煙くさい上着や、自分のマイトが見
える。ホテルの窓からは、既に動き出した街の、例えば新聞配達の自転車や、
パン屋のシャッターの開く音が聞こえる。けれども獄寺の腕を枕にツナは、
寝息一つ乱さずぐっすりと眠っていた。
「…ありがとうございます、十代目……」
 言葉よりも確かなツナからの信頼を抱いて、獄寺は夜明けまでもう少し、
その寝顔を見つめている。



家庭教師ヒットマンREBORN! 山獄ツナ
元web拍手小話
 俺が見ているのは空ではなく、煙ではなく、あなたのいない空間です。
そこには何もない。空虚さえない、存在しない。あなたのいない場所なん
か、俺の世界には存在しないってことなんです。俺はあなたを必要として
いる。あなたは俺の法だ。あなたが俺を望むだけで、俺は永遠さえ生きる
だろう。
 でもあなたはまだ気づかない。まだ13のあなたは気づきようがなく、
俺もまた愚かだ。そんな俺たちを知っていたのが、俺の法の外にいる人間
だった。十代目、あなたの親友、あなたのケンコー骨、この野球バカ。
 屋上には煩わしい女も追ってこない。バカは追ってきたみたいだが。苛
立ちを誤魔化すように指は勝手に動いて煙草を探り当てる。唇に挟んだは
いいが、ジッポが、いつも懐に入っているジッポが見つからない。
「ほら」
 曇り空の下、ふと、目の前に現れたのは柔らかく揺れる火だった。マッ
チの火だ。
「火」
 山本の指から目を逸らしながら、俺は火を吸いつけた。奴は勝手に隣に
座り込み、これウチの店のマッチ、などと言っているが、取り敢えず耳を
貸す気はない。お前は俺の法外だ。
 紫煙は風のない二月十四日の空に吸い込まれる。そこには何もない。煙
草の火だけが時間を刻む。法のない屋上に、あなたから与えられたのでは
ない火だけがちりちりと燃え続ける。



家庭教師ヒットマンREBORN! リボツナ
元web拍手小話
夜行列車で行く二人、このツナはリボーンが大好きです
「欲しい」
「何が」
「くれたら眠る」
 するとリボーンは永眠権のチケットとして銃口をつきつけた。でも今夜はひきさがれな
い。時速150キロで走る二人きりの部屋。夜が明ければ既にそこは部下達の大勢待ちかま
えた街。リボーンは腕利きの殺し屋で、ツナはボスだ。
「こういうこと教えたの全部リボーンだろ」
「俺相手に実践しろとは言ってねー」
リボーンはベルトをまさぐってくるツナの手を掴み上げながら、しかし自分の座席に引き
寄せる。唇はリボーンから重なった。
「あ…」
「……おい」
ツナの体からはあっと言う間に力が抜け、慌てて背中を抱く。真っ赤にほてった顔。見上
げる目はもう涙目だ。
「いくら弱いったって、早ェだろ」
「だって…」
ツナはごくんと唾を飲み込み、顔を伏せる。
「やっとリボーンに触れた…嬉しくて…」
リボーンは小さな照明に照らされた、真っ赤になツナの耳を見おろした。指先で触れると、
体を震わせる。
「ふむ…嬉しくなくもない」
「意地っぱり」



家庭教師ヒットマンREBORN! リボツナ
十年後直後、ボンゴレファミリー十代目ボスとヒットマンとして、リボーンとツナとして
科白を引用した映画は『ドラキュリア2』
「目を閉じて神に祈れ。目を開けたときには全て終わっている」
「神なんて、信じてないよ」
 大体それ、映画の科白じゃんか、と沢田は小さく呟き、目の中に流れ込む血を手の甲
で拭う。リボーンは黙って弾を装填し、ルーレットのようにシリンダーを回転させる。
低い天井に回転音が反響する。
「今日は黙って守られろ」
 沢田は息の合間にリボーンを見た。黒い中折れ帽の庇が表情を隠している。銃口と同
じく沈黙している奴ほど物騒だ。まったく頼もしい。
「だから俺、マフィアなんて嫌だったんだよ」
 がちり、と音を立ててシリンダーが噛み合う。
「ツナ」
 リボーンの腕が伸び、沢田の頭を引き寄せる。口づけが嫌味なほど優雅に傷口に触れ
た。沢田はキスは嫌いだったが、甘んじてそれを受けた。唐突だったせいもある。疲れ
て動けなかったせいもある。しかし、この傷ついた体が、リボーンが触れるのさえ懐か
しく求めるのが実の所だった。
「目を」
 瞼が。
「瞑れ」
 落ちる。
 リボーンの声音は怒りを帯びていた。沢田はもう逆らわなかった。体の求めるものに、
リボーンの言葉は十分に足りた。



家庭教師ヒットマンREBORN! 山ツナ
十年後手前、マフィアになるなんてと躊躇する、決断するには若すぎる
タイトル:笑わない人
山本の厚い手が沢田の口を塞いでいた。
「言うな」
山本が、今にも喉の千切れるかのような、酷い声で言った。
「言うな、言うな」
殺せ、という囁きが口の奥で渦を捲く。頭が破裂しそうだ。だって血が。骨が。骨が。肉、が。
人間のかたちをしたものが、オレの手が。
「だって…」
くぐもった囁きを漏らす。
「オレが」
「ああ、殺したろうさ、十代目。……だけどよ」
泣いてくれ、と山本こそ今にも泣きそうな声で言った。
「泣いてくれ、ツナ」
死体を目の前に。この平和が泥濘のように覆う日本で、血濡れの死体を目の前に。
二人の青年は泣くこともできず、肉体を軋ませている。
マフィアになんてなるつもりはなかった。人を殺すなんて。この手で。
「オレを」
「言うな!」
「殺して、山本」
この世界を消してくれ。



家庭教師ヒットマンREBORN! リボーンと獄寺
夏目漱石の『二百十日』の文体を意識して……って、どこが?
消えない輝きがあったらとりさんへ。
鉄の翼が夜気を切り裂く。
月が出ている。下弦が晧晧たる光を吐く。
狭い座席に窮屈そうに、眩しそうに目をそばめ、獄寺。
「明るい」
リボーンが膝の上のチェス盤で、つまらなそうダイヤを弾く。
光が弾ける。
「リボーンさん」
応えは視線。
「十年前、中学校の秘密部屋で殺しのイロハ、教えてもらいましたっけ」
「ふん」
笑い、リボーン。
「感傷か」
「いえ。交渉のイロハは教えてもらってないと思って」
「教えねーよ」
「教わるものではなく、盗むものですか」
「は」
笑いともつかず。
「優等生の答えはいらねー」
急に鋭く。
「折角連れていくんだ、死ぬなよ」
ダイヤを一つ抓み上げ、指先に力を入れる。
微かな膠着。
刹那、砕ける光の粉。
満月のように見開く目。
「フェイク…」
「これはな」
リボーンは目を伏せ、無造作にチェス盤を畳む。
からからとダイヤが転がる。
掌で受け止めた冷やりとした塊。
「リボーンさん、これは…」
「確かめてみるか?」
笑う片目。
が、不意に閉じ、顔を覆う中折れ帽。すぐに寝息が聞こえ出す。
獄寺、手の中の輝きを月に翳し、溜め息。
エールフランス、深夜便。



家庭教師ヒットマンREBORN! リボーンと獄寺
「はちどり」のとりさんがリボデラとおっしゃっていたので挑戦。
すみません…リボーンはきっとこんなこと言いませんよね……。
 大雨で通りに出ることができない。沢田はソファで横になり、山本はその上に
自分の上着をかけてやると床に腰を下ろしてハンドガンの手入れをしている。テ
ーブルの上にはやりかけのポーカーがゲーム半ばで放棄され、キングもジャック
も士気を失っていた。
 紫色の雷が窓辺から通りを見下ろす獄寺の横顔を照らし出す。リボーンは小さ
な明かりの下、軽く目を伏せて薄い廉価版の本に目を走らせる。神曲・煉獄編。
今更か、と山本が小声で尋ねると、片手を広げてみせた。五度目、ということだ
ろう。
 獄寺が居心地悪そうに足を組み替えた。さっきから頻繁にそれを繰り返してい
る。幹部が揃いも揃って一所に集まっているのが気に食わないのだろう。今、襲
撃されたらどうするつもりだ、という苛立ちに似た雰囲気が漂っている。少しは
雨の夜も楽しんでやれよ、と山本は思うが口には出さない。ここで沢田を起こし
たくなかった。横目でリボーンの手元を確認する。残りのページ数は僅かだ。
 不意にリボーンがトランプの上に本を放った。
「行くぞ」
 山本は一瞬腰を浮かせたが、リボーンの視線は獄寺を貫いていた。リボーンの
視線は細い針金のようだと思う。かつて自分の肩に乗るほどに小さかったあのリ
ボーンがいつの間に、と思う。が、また同時にリボーンはそういう自分の本性を
隠してはこなかったと山本は知っている。なにせ初対面からナイフにマシンガン
の雨あられだったではないか。
 獄寺が窓から離れる。ようやく部屋の空気が動いたかのようだった。獄寺は無
駄ない動きでリボーンの後に続く。その目と一瞬、合った。頼むぞ、とも、十代
目に何かあったらテメー殺すぞ、ともつかない鋭い目だった。山本は苦笑を返す。
沢田は柔らかなソファに横たわったまま、今しばらく夢の中。


 ホテルの前にはおそらく最のつく高級車が待っている。リボーンが襟を立てる。
囮の意味もあるのだろう。獄寺はその身体を庇うフリをしながら急くように車に
乗り込んだ。
 車は滑るように豪雨の中を走り出す。しかしドアが閉められた途端、車内は雨
音どころかエンジンの音さえ聞こえない不思議な無音に占められた。ウィンドウ
のカーテンを閉めると、いよいよどこを走っているのか分からなくなる。知らぬ
荒野、砂嵐の町、月面、どこでも。
 カチリと耳慣れた金属の音が空気を震わす。獄寺は一瞬の夢から醒める。リボ
ーンが葉巻に火をつける。食いちぎった端が足元に落ちている。紫煙は生き物の
ようにリボーンの手にまとわりつく。
 細く貫くような視線が、一瞬獄寺を見た。ふと葉巻を差し出される。獄寺は少
し驚いてそれを手に取った。葉巻は久しぶりだ。本当に嗜好でしか吸わない。ゆ
っくりと葉の煙を肺腑に巡らせ、溜め息をつく。
「まるで」
 冷たい声が、氷の壁を叩くような無機質さで落ちた。
「殺してくれと言わんばかりの顔だったな」
「オレが、ですか」
 他に誰がいる、という嗤いがその表情の少ない顔に浮かんだ。
「死に場所は求めるなよ」
「当たり前です」
「分かってるのか」
「分かってますよ」
「オレがお前らも大事だってことも、分かってるか」
 急に心臓を鷲掴みにされたようだった。動くことができない。振り向くことも。
今、リボーンがどんな顔をしているのか、見ることも。
「勿論、ツナのためだ。ファミリーのな。隼人」
 車は今、どこを走っているのだろう。知らぬ荒野、砂嵐の町、月面、息苦しい
し、重力も六分の一しかない、なるほど、この浮遊感も肯ける。
「ファミリーってお前のことだぞ」
「…分かってますよ」
「まあいい、話す時間はある」
 カチリと音がした。柔らかな炎が揺れている。吸わないでいた葉巻が冷たく燻
っていた。リボーンの差し出した炎に、獄寺はそっと顔を近づけた。
 リボーンと目があった。
 車は雨の降る月面を走り続け、二人で夜通し話をした。