Thank you your tenderness





 野良犬が歩くのについて歩くと海に出た。浜辺をとぼとぼと連なって歩き、夕方まで屋台の周りをうろうろしていた。オレンジを一つ買い、半分を野良犬に投げた。野良犬は匂いだけかいで、また歩き出した。オレンジを囓りながら、後について歩いた。
 急に仕事のない静かな日がやってきて、午前十時半、街中にぽつんと立っていると、人間は生まれた瞬間から死に向かって歩いているのだという、どこかで聞いたような言葉が事実であることに、ランボは気づいてしまったのだ。
 ――でもあいつは。
 緑色の瞳を伏せる。
 ――死ねもしないんだろう。
 いつか死ぬ。苦しんで死ぬだろう。奴が死ぬ時は失意の瞬間だ。満足や快楽がある限り、リボーンはこの世に生き続ける。彼の呪いというのが一体どういうものなのかよく解らないが、呪いと言うからにはそれは恐ろしく、周囲には悲しいものだろう。
 野良犬が立ち止まった。公衆電話があったので、ボヴィーノのボスに「家出します」と電話をかけた。野良犬は再び歩き出し、ランボも彷徨う。
 死ねない魂と、いつか死ぬ俺。どちらも慰めようがない。死ねばさよならだ。永別、とイーピンは教えた。輪廻転生も教えてくれたけど。
 ――会えないっぽいな。
 野良犬は海岸の端でUターンをして、自分の足跡を辿り直す。ランボもそれに続く。日没が近く、海はオレンジと同じ色に染まっていた。
 一発の銃声。夕焼けの中の、黒いシルエット。自分に真っ直ぐ向けられたCZ75セカンドの銃口。
「手間かけさせやがって!」
 銃声。頬に痛みが走る。血が流れている。
「リ……」
 銃声。銃声銃声銃声銃声銃声銃声。弾丸。耳元を掠めるあの音。硝煙の匂い。痛み。血が流れる。何処かしこに掠り傷が増え、増え、銃声銃声銃声銃声が止まない。
「馬鹿野郎!」
 怒声と共に最後の銃声が聞こえた気もするが、自分の眉間には弾がめり込んでいて、脳の奥でランボは後悔する。嘘、マジで死ぬの俺、今までも結構死にそうな目には遭わされてきたけど死ぬ本当に死ぬマジ死ぬこれはリアルに死ぬ俺は末期の言葉さえ言ってないのに名前の一つも呼べていないのにこのまま死ねるか!
 身体がむずむず熱くなり、ランボは殻を破って外に飛び出す。目の前には銃を構えたままのリボーンが立っている。
「リボーン!」
 ランボはリボーンに飛びかかると、両手足でリボーンに抱きついた。
「探しに来てくれてありがとう!」
「……うぜえ」
 リボーンは銃を持った腕をだらりと垂らし、そして苦々しく笑った。



Reborn * Lambo