トーキン・アバウト・ハピネス/口の端が切れた




 所用で連絡を取ると、景気が悪いらしくたかられた。とて、酒の一杯を惜しむ男ではな
い。モレッティは可哀相な医者に奢ってやるため外へ出た。二月の風は身を切るように冷
たい。
「いよう、ロミオ。しばらく見ねえ内に男ぶりが上がったか」
「その言葉、そのまま返しますよ。色男」
 ロミオとロミオじゃ話しにならねえ。ジュリエットはどこだ、と管をまく医者は可哀相
に早くも飲んだくれており、切れた唇の端をいよいよ腫れさせていた。
「今度は誰ですか。誰にやられたんですか」
「違えよ。女神に接吻されたんだよ」
「昨今の女神は牙が生えてるんですな」
「なんでえ、知らなかったのか」
 しかし医者は可笑しそうに笑った。腫れた頬が引き攣り、目元は痛みを感じていますよ
と訴えてはいたが、だが女の話をする限り、彼は不幸な顔などしないのだ。
「…昔を思い出しますね」
「藪から棒に…」
「私がまだ医学部にいたときですよ」
「そりゃ化石時代か?」
「あんたがヴァリアーだったとき」
「………」
「私がまだ医者になれるんじゃないかと、殺され屋と二足のわらじを履いてたとき、あん
たはもうとっくに医師免許を取得してヴァリアーになって…、考えればすさんだ女遊びに
ならなかったのは、やっぱりあんたの才能だったと思いますな。あんたと飲むと大抵は女
の話で、あんたは身体中傷だらけで、その傷の半分は女につけられたもんなのに、ニヤニ
ヤ楽しそうでした」
「…当たり前だ、女だぜ」
 医者は空のグラスを持ち上げ、新しい酒を所望する。バーテンは無表情のまま、黙って
その要求に従った。
 新たにグラスを満たしたウィスケベルを乱暴にあおり、医者は笑う。
「女以外の何が、俺を幸せにするんだ?」
「……色男、ロミオ、あんたにゃ敵いません」
「だろうぜ」
 と言う訳で、その夜、可哀相な医者は酔い潰れ、モレッティは、いっそリボーンさんに
お願いしようかな、とも思ったが保身を考えて止めにした。
 身体中から酔いの匂いを発散させる可哀相な医者は、酔い潰れてようやく痛そうな顔を
していた。そうだ二月の風はまだまだ傷にしみる。






チキンさんに便乗して、シャマル過去ヴァリアー設定捏造。
ついでにモレも過去捏造。

お題配布元→ボコ題

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