ブラッディ・ナイト・ショー




「良い夜ですね、若きボンゴレ十代目…」
 背後から声がかけられたその瞬間、ツナは声にならぬ悲鳴を上げて硬直した。逆に背後からは、この世のものとは思えぬ壮絶な悲鳴が…、聞こえ。
「ぽ……」
 意味不明な一言を発し、ツナはばったりと倒れる。
 テレビはガサガサと荒れた映像が蒼い影を部屋に落とす。青白い顔の子供が、暗い瞳を真正面からこちらに向けている。それに照らされむっくりと起きあがったのは、くるんと渦を巻いたもみあげのシルエット。リボーンだった。
 リボーンは、倒れたツナの頬をぎゅーっとつまみ上げたが、起きない。完全に気を失っている。リボーンはツナの身体をまたぎ、入り口に倒れるランボに近づいた。長い足が見える。腹の上にぴょこんと飛び乗ったが、勿論赤ん坊とて重量はあるし、リボーンは銃も携帯している。しかしストマック蹴りを食らわされたにも関わらず、ランボも起きない。そのまま胸の上から女受けのする甘いマスクがどのようになったのか観察すると、目も当てられぬとはこのことだった。白目を剥いているだけではない。口から泡まで吹いて気絶している。
「アホ面め」
 リボーンはそのままランボの胸の上に座り込み、その気絶顔を眺めた。何故、こんなアホ牛に十年後、惚れてしまうのかが分からない。愛人にしているという。解らない。理解できない。顔を近づけ、まじまじと眺める。睫毛が涙で濡れている。泣くほど怖かったのか。たった一秒にも満たない出来事だったのに。声もなく気絶したツナもツナだが、大の大人が悲鳴を上げて倒れるというのも情けない。
 その時、睫毛がかすかに震え、目蓋がゆっくりと開いた。
「ふん、目が覚……」
「!!!!?!?!!!!!!!」
 目覚めたばかりにして、ランボは再び身の毛もよだつような悲鳴を上げ、気絶する。口の端からこぼしていた泡が、リボーンの顔に盛大に吹きかかった。
「……やっぱり今殺しとくしかねーな」
 リボーンは懐から銃を抜き、悲鳴を上げたままだらしなく開いた口に銃口を突っ込んだが、次の瞬間、白い煙が立ち上がり、大人ランボの姿は消えていた。
「う…?」
 目の前に呆然と立っているのは五歳児のランボだが、そのランボも次の瞬間、耳をつんざく悲鳴を上げて気絶した。リボーンが後ろを振り向くと、テレビ画面の中では、ゴミ袋の中から血まみれの女がズルズルと這い出してくるところだった。
 リボーンは溜息をつき、足下のランボを見下ろす。今でも、やはり、こんなアホ牛を愛人にするなど信じられない。おそらく、目覚めても、再びテレビ画面を見て悲鳴、気絶のループを繰り返すだけだろうから、今の内に外に放り出しておこうかと襟首を掴んだ。
 短い睫毛が涙に濡れていた。
「…おい、ツナ! 起きろ!」
 蹴飛ばすとツナがようやく目覚めた。そして気絶したランボを投げつけられ、ようやく事態を把握する。
 転がっていたリモコンでDVDを止め、部屋の電気をつけて、ツナはようやく苦笑した。
「あー…、怖かったー……」
「疲れた」
 リボーンは憮然と呟き、顔に飛んだ泡を拭った。





2008.10.25/日記にて。ちなみに社長@YGOの誕生日だったが関係はない。ネットで怖い話を読んだら怖くなってしまったから書いたよう。