7




 再び轟音の間をすり抜けて客室車両に辿り着いたとき、沢田はとうとう疲弊した顔を見
せた。ぐったりと俯き、窓にもたれかかる。獄寺は声をかけあぐねて、沢田の前の席に座
っている。山本だけが通路に佇んでいた。
「運転席にジャンニーニはいなかった」
「ああ」
「でも血痕もなかった。壊れたマシンの残骸もなかったし、外のドアを開けた形跡も、何
もなかった」
「ああ」
「ジャンニーニはどこへ消えた?」
「あいつがあのマシンから降りれば、通路を通るのは簡単だろうけどな」
「でも僕らがいた。山本、見落とすか?」
「見落とさないだろう」
「じゃあ、お手上げだ」
 沢田の声は途切れる。やや青ざめた顔をガラスに押し付け、その冷たさでようやく現実
に留まっている。山本はかすかに微笑み、車両内を見渡した。
「でも、ここから前の車両には少なくとも敵はいない。…少し休めよ、ツナ」
 後ろの車両を見てくる、と山本は踵を返した。沢田は窓に額を押し付けたまま振り返ら
なかった。
 足元の列車の揺れ、先程の轟音の記憶が静かなものになり始めた頃、獄寺が恐る恐ると
いったていで「十代目」と声をかけた。
「何?」
「疑っていらっしゃるんですか?」
「…誰を?」
 沢田は顔を上げる。獄寺と目が合う。
 獄寺は目を逸らさなかったが、しかし答えもしなかった。沢田は薄く笑い、すぐにその
笑みを消してまた疲れたように顔を歪めた。
「…山本が何でも知ってる」
 重たい口を開き、そう言った。濡れた砂のような舌を動かし、言葉を継ぐ。
「君より知っている。俺より…。この列車のことも、リボーンのことも」
「十代目」
「獄寺くんは平気なの?」
 今度は獄寺は目を逸らし、答えなかった。
 列車が揺れる。しかし運行に問題はない。終点まで、この列車は止まらない。止まれな
いのだ。
「出し抜いてやろうとか」
 沢田は再び問う。
「思ったことなかったの?」
「ありました」
 獄寺は答える。
「何度も」
「何度も?」
 鸚鵡返しに沢田は問い返す。
「十三の頃から、何度も」
 沢田はくしゃりと表情を崩し、笑みに似たその顔で獄寺を見た。
 しばらく沈黙が続いた。獄寺が声をかけようとした瞬間、沢田が「獄寺くん」と名前を
呼んだ。
「リボーンのところに行こう」
「え?」
「もう一度調べよう」
「山本は…」
「君がいる」
 沢田は立ち上がり、獄寺を見下ろす。
「右腕、なんだろ?」
「……はい!」
 いたって静かな足取りで、二人はリボーンの部屋の前に立った。沢田は腰から鍵の束を
取り出し、番号を確認して鍵穴に差し込む。しかし回らない。沢田はもう一度部屋の番号
と鍵の頭に彫られた番号を見比べた。アンティークを模して作った鍵。もう一度差し込む。
がちゃがちゃ左右に揺らすと、反対側に回った。
「…え?」
 扉はぴくりとも動かない。沢田はもう一度鍵を回す。
 開錠する、心地よい音がした。
 沈黙の質は密やかなものに転じた。獄寺の腕が沢田を下がらせ、彼は片手にマイトを構
え勢いよく扉を開けた。



きみの懇意に牙を見かける





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