6両脇から轟音が迫る。骨の底からがたがたと震えるような物凄い音だった。 「すごい!音だね!」 沢田は叫んだ。まだ機関部の入り口だ。目の前には暗く狭い通路らしきものが伸びてい る。おそらく、通路として作られたものではなく、単に機械と機械の隙間というだけだろ う。肩幅ほどの隙間がようやくあるかないかという通路だ。 「でもここ!ジャンニーニ!通れないんじゃない!?」 「あいつは!ここ!通らないんだ!」 山本が大声で返す。 「運転席の……!」 そこで口を噤み、沢田と獄寺の腕を取って、前の車両に戻る。 「運転席の正規の入り口は先頭車両の外側についている扉だ。ジャンニーニはそこから入 る」 「他の人間は」 「運転席に入る必要がない。列車強盗はここを抜ける間に捕まるか、外から無謀な侵入を 試みて零下の風に吹き飛ばされるか、どちらかだ」 「夏だったら?」 「若葉薫るハリケーン級の風か?」 ふざけるなとでも言うように獄寺が足を踏み鳴らす。 「俺達はここを通るしかねえんだろうが」 「そうだ。耳栓しろよ」 山本が先に立つ。両手で耳を塞ぎ、狭い通路に身体を捩じ込ませる。ふと、何を思った のか、そのままのポーズで振り返り、二人にウィンクをした。獄寺がボムを爆発させよう とするのを、沢田はネクタイを引っ張って止めた。 恐ろしいほどの轟音だった。この音を聴いていると、その重苦しさから人生に存在した 何物をも忘れてしまうような気がした。そして永遠に重苦しい轟音の中を歩き続けるよう な気がした。しかし沢田の目蓋の裏には廊下に倒れたリボーンの姿と、扉の向こうに消え た赤ん坊のリボーンの懐かしい笑みが消えないのだった。すると、心の底からふつふつと 何か言葉のような感情が湧いてくるのだった。 山本の足が止まった。目の前には黒く塗られた鉄の扉があった。注視しなければ、壁と 同化し扉とは見えないのだった。山本の右手が扉の前で動く。暗証番号のようなものを打 ち込んでいるらしい。扉が開くと、涼しい風が吹き込んだ。 沢田の手をそっと山本が下ろさせた。もういいぞ、という声が遠くから聞こえた。 まだうまく聞こえないかもな。山本の口はそう喋っていた。 山本が退くと、目の前には空気と同じくらい清浄な光景が広がっていた。コンソールが 仄かに青白い光を放っている以外、そこに明かりはなかった。美しいカーヴを描く窓の向 こうにはライトに照らされた幾千幾万の雪片が現れては消え、現れては消え、無限の残像 を描いていた。 「…ジャンニーニは?」 声と共に思考が蘇る。 「ここ…? ここが……運転席?」 「ああ」 山本の低い声が聞こえる。 「運転手は? ジャンニーニは!?」 「十代目…」 獄寺がコンソールの一部を指す。沢田は近寄り、ディスプレイに表示された文字を読ん だ。 「アウト…!」 「自動走行です」 沢田は目を見開き、獄寺を見る。 「この列車はもう止まりません。終点にたどり着くまで、絶対に」 「終点って…?」 「オーロラの見える場所さ」 山本が答えた。 草と歩兵 |