5列車内の全ての鍵が、じゃらりと音を立てて沢田の手の中に落とされた。沢田はそれを 腰につけ、ようやく溜息をついた。 「乗客名簿はこれだ。これが平面図。一応、部屋番と同じところに皆、入ってる。出歩く なと言わなくても、皆部屋から出る気はないらしい」 山本の声を頭の上から聞く。ひどく重苦しくて、目の前の座席を指差した。 「何だ?」 「そこ座って」 山本は沢田の前に腰かけ、疲れたか、と声をかけた。 「今疲れてもどうしようもない。もし死にたきゃ別だろうけど」 「そんなこと言わないでください十代目!」 「…獄寺くん、耳もとで叫ばないで」 沢田にぴったりと寄り添うように座っていた獄寺が、すみません!、と土下座せんばか りの勢いで謝ったが、沢田はそれを見なかった。 「…何か、色々乗ってるんだけど」 「小僧が、旅にはスリルが必要だって言ってな」 言ってしまってから山本は洒落にならないそれに、ぐっと息の詰まったような顔をした が、沢田はツッコミの一つも入れなかった。 「ハルとか乗ってるんだ…。ヴァリアーは、まあボンゴレだけどさ。あとボヴィーノのラ ンボは仕方ないと思うけどね、トマゾのロンシャンとか乗せて、何かリボーンにメリット はあったのかな」 沢田は平面図を視線でなぞる。今、彼らがいるのは機関部の次の、客席車両の中では一 番前だ。続いて、ハルやフゥ太らボンゴレ関係者、次がヴァリアー、続いてゲスト車両と なっている。 「……静かだな」 「あ?」 「ハルとか、真っ先に騒ぎ出しそうなのに」 「ああ。怖がってた」 「ふうん」 確かにそうかもしれない。ハルのいる車両と同じ車両にリボーンの部屋はある。今、リ ボーンの死体はそこに寝かされている。鍵は沢田が持っている。また、ランボの部屋にも 施錠した。最初から、そのことに思い至らなかったことを、沢田は後悔している。 「もー頭ぐっちゃぐちゃになりそうだ」 「大丈夫だよ、俺たちがついてる」 俺が!ついてます!と叫ぶ獄寺には返事をせず、沢田は指を一本立てる。 「最初に殺されたのはランボだった」 「ああ」 「だからランボが、ランボだけが狙われたのかと思った。ここはボンゴレライナーだし、 ランボは守護者だけどファミリーの人間じゃない」 「守護者を狙った、とか?」 雨の守護者の言葉に、沢田は指でピストルを作り、山本の心臓を狙う。獄寺の嫉妬はや はり無視する。 「リボーンもだ。リボーンも殺された。そしてランボの死体が盗まれた」 「ランボとリボーンが邪魔な人間?」 「かもしれない。でもどうしてランボの死体を盗むんだ。リボーンの死体は置き去りだっ た」 「俺たちが駆けつけたから?」 「でもランボの死体は煙みたいに消えた。どこか他の場所に隠すだけの時間があったんだ。 って言うか、何か違う気がする。ランボの死体を盗んで、リボーンの死体を残すのは納得 がいかない。逆なら解るんだ…」 沢田のピストルは山本の心臓から外れない。 「同じ犯人だと思うか?」 「別々の事件が起きた…?」 「めんどくさいけど、三つか、少なくても二つだ。必要があるんだ。この犯人には。こう するだけの必要があって、殺人も起きてる。だから、いるはずだ。ランボを殺した犯人。 ランボの死体を盗んだ犯人。リボーンを殺した犯人…」 静かな車内に吹雪の風の悲鳴が遠く響く。車輪は一定の速度を保持し、走り続けている ことを乗客に知らしめるように、足元を震わす。 「あれは…リボーンなのか…な……」 「信じろよ」 山本は沢田のピストルを掴み、両手で包み込んだ。 「あいつは十年来のお前の家庭教師だ。あいつはお前を裏切らない」 沢田はしばらく沈黙を続けていた。時間をかけてゆっくりと思い出すように、ピストル の指をほどき、僅かに目を伏せて頷いた。 「そうだな」 「もしあれがリボーンさんじゃないなら」 獄寺が口を挟む。 「いつか、あんな人形がありませんでしたか? そうだ…姉貴の結婚式の時…」 「ロボット!」 沢田も思い出す。 「でもアレはリモコンで、決まった動きしかできない。あんな人間みたいな…」 みるみる沢田の表情は変わった。乗客リストを手繰る。そして頭に浮かんだその名を、 リストの中に見つけ出す。 「ジャンニーニ!」 「あいつなら作り出せる…?」 「無理だ」 山本が言った。 「ジャンニーニはこの電車を運転しているんだ。小僧を殺したり、ロボットを操ったりは できない」 「でも何か知ってるかもしれない」 沢田は立ち上がる。 「ジャンニーニはどこにいる?」 冷たく見下ろされた山本は、従うように立ち上がり沢田を機関部に案内した。 手作りの殺意である |