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 割れた窓ガラスから吹き付けてくるものがあった。沢田は一瞬、それをガラスの破片だ
と思い、顔を腕で覆った。しかしそれは手に触れると水になって溶けた。
 凍てつく氷片と白い羽が客室の中を渦巻いていた。そしてその下でうつ伏せに倒れた男。
真っ赤に染まったシーツ。白い羽毛を吐き出し続けているのは枕だった。枕にも血糊がつ
いていた。その様子を三人はじっと見つめた。
「これ…」
 言いかけて、沢田は口を噤んだ。いくら死体と言えど、これ、と表現するにはあんまり
だと思ったのだった。けれども、この死体、と口に出すのも恐ろしかった。
 結局、言い直すことも出来ず、言葉を次ぐ。
「ランボ、なのかな…」
「見てのとーりだろ」
 リボーンが一言吐き捨てる。
 柔らかくうねる黒髪。牛柄のシャツ。手に握られた角。半分脱げかけたサンダル。見慣
れた姿が、まるで異質のもののように見える。
「…誰が」
 言ってしまってから沢田はは口を覆った。
「一体、誰が?」
 この列車を用意したのがリボーンなら、ここにはボンゴレ関係者しかいない筈だ。否、
厳密に言えばランボはボヴィーノ・ファミリーの人間だが、しかし守護者だし。だが守護
者と言えば六道骸はどうなるんだと言う話だし、雲雀なんかは群れてれば咬み殺すし。
「ツナ!」
 耳慣れた声が響く。沢田は一気に表情を崩し、振り向いた。
「山本!」
「見失った」
 暗い声で一言呟かれ、沢田はぎょっとして山本を凝視する。山本の指は拳銃の引き金か
ら離れないままだった。
「山本…?」
「状況を説明しろ、獄寺」
 リボーンの声は頬を打つようだった。慌てて獄寺が説明を始めた。
 まず銃声に気付いたのは山本だったそうだ。続けてもう一発響いた銃声は確かに獄寺に
も聞こえた。二人が通路に出ると、一つだけドアの開いた部屋があり、列車の連結部にち
ょうど人影が消えるところだった。山本がそれを追いかけ、獄寺は部屋を覗き込んだ。そ
して死体を発見したのだった。
「じゃあ犯人は…」
「まだこの中に潜んでるだろうな。飛び降りた様子もない」
「どうしてランボを…」
 沢田はベッドの上の死体を見つめ、そして不意に眉を寄せた。
「ねえ、本当に死んでるのかな」
「何だと?」
 リボーンが眉を吊り上げる。
「もしかしたら、助からないかな。ほら、急いで手当てすれば、助かるんじゃないかなっ
て」
「じゃあ何で近づかないんだ、お前」
「それは…」
「あれが死体かどうかはっきりさせたきゃ、プロがいる」
 リボーンは隣の部屋の扉を開けた。
「ドクター・シャマルだ」
 その紹介と共に真っ赤な顔に酒ビンを抱え酔いの匂いを撒き散らした男が雪崩れるよう
に廊下に転がり出た。
「酔いどれー!!!」
 沢田は叫んだ。



告知の妙





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