青い嵐




 眠る前の青空が溶け出して、夢の中にまで滲んできた。午睡の風はもう秋の匂いがした。沢田はカレンダーを逆から数え直し、今日が誕生日だったと知る。昨日はリボーンの誕生日だった。その前は明日がリボーンの誕生日で、明後日が俺の誕生日だった。カレンダーを逆さに捲る内に、時計は大きく回りすぎて、ふと、今の場所を見失う。
 俺はどこで眠っているんだろう。
 解らない。覚えていない。ここが日本なのか、イタリアなのか。自分が十四才なのか、二十四才なのか。それとももっと歳をとっているのか、年老いているのか。
 気持ちが良くて、眠っていたはずだった。
 さっきまで晴れていたろう。滲んだ青空が滴り、プールのように沢田を満たす。冷たい水が喉を潤し、すっと通った喉に秋の風が香る。美味いものをたらふく食べて、美味いワインをたらふく飲んで、この身体も溶けてしまったかのような幸福感。
 満腹感じゃない、幸福なんだ。俺は今、幸せだ。
 幸せだから空も溶けた。澄んだ光が空色の青をこして、ゼリーのように降ってくる。沢田はそれを両手で抱き締める。掌が透ける。本当に溶ける。空と一つになってしまう。風の匂いが水気を含んで、柔らかく鼻をくすぐる。雨が来る。雨が来る…。

 クリネックスを持った獄寺が覗き込んでいた。沢田は一度まばたきをして、クリネックスが鼻に当てられているのを知った。
 盛大にくしゃみ。
「申し訳ありません、十代目。俺まで眠っちまって…」
 雨音がする。強い風の声。沢田は身体を起こす。ベッドの上には、沢田と獄寺がいる。服は床の上に脱ぎ散らかされたままだ。窓が大きく鳴る。
「珍しい。嵐です」
「嵐…」
 沢田は枕に頭を落とす。
「…さっきまで晴れてた」
「ええ、海の方で稲妻が。それから急に」
 急に、獄寺の言葉が途切れた。沢田が腕を引っ張った。引っ張られるままに体勢を崩した獄寺はベッドに倒れ込んだ。沢田はその上に馬乗りになる。
「…十代目?」
 沢田は、ふっふっふっ、と笑うと、獄寺の身体にぴったりと自分の身体を重ね、横になった。
「した後も裸の獄寺くんって、久しぶり」
「あ、え……」
 俺、幸せなんだ、と声に出さず沢田は言った。獄寺の胸に唇を押しつけ、ふふふふふ、と震わせた。くすぐったかったのか獄寺が笑い、笑いながら羽根毛布を引き上げた。毛布が二人の上に落とす影は、青空の滲んだ色を残している。