愛の努力は続く




「獄寺くんはやさしすぎる」
「のろけか?」
 山本が運転席から振り向く。
「のろけだよ」
 俺は面白くない顔で返した。
「マンネリか?」
「愛にマンネリはないよ」
「愛か!」
 急カーブ。俺の身体は後部座席を転がって、手に持っていた日本製スナックがばらばらとこぼれるけど、車の持ち主である山本は頓着しない。
「すっげえこと言うよな、ツナって」
 ラジオが掠れた歌を流す。車は郊外に向かってひた走る。頭から落ちてくるスナック菓子のかすと一緒に、冬の空に切れ切れに散らばるラジオの電波が見えた気がした。

          *

 ラジオの向こうから掠れた君の声が聞こえてくる。なんでラジオの恋愛相談のコーナーに投稿してんの? 恥ずかしい。何で生放送で電話回線つないで相談とかしてんの? 恥ずかしい。何で俺のこと好きとか言うの? 恥ずかしい。嬉しいよりも恥ずかしい。お願いだから黙ってて欲しい。俺のこと好きなら、それを閉じこめておいてほしい。俺にだけ言えばいいじゃん。他の誰かにバラすことないじゃん。俺のこと好きなんだろ。俺に言えよ。
 イヤホンを外す。コンビニで買ったカールの袋を乱暴に破くと、破裂したみたいにカールが舞って、チーズ味のそれは俺の上に降る。ああ何だかもう踏んだり蹴ったり。俺はラジオを切る。買ったばかりのiPodが急にいらないものに見える。て言うか捨てたい。今すぐ捨てたい。俺、このラジオ番組好きだったのに。俺の好きな曲が結構流れるから好きだったのに。好きなポップス、まあまあ好きなアーティスト、なんか面白いトーク。今日はぜんっぜん面白くなかった!
 誰にも会いたくなくて、無理に反対行きのバスに乗ってみる。行き先は知らない。でもこのラジオ全国放送だったんだ。うわー、もう死んでいい?
「じゃ、死ね」
 パン、と軽い音がした。俺はちょっとだけ見た。バスの窓に、バイオハザードみたいな血糊がパッと広がるのを。そこから先の記憶はフルスロットルって言うか、覚えてるんだけど覚えてなくて、だから俺はパンツ一枚でラジオ局まで走っていって生放送中のスタジオをジャックし、と言うかマイクを奪い取って全国放送で叫んだんだ。
「俺の目の前で告白しろぉ!!!!」

          *

 急に車体が揺れる。ラジオの歌声もうわんうわんと揺れる。ちょっと妙だなと思ったら山本がハンドルから両手を離していて、真正面に向けて銃を構えている。
「ちょ…ちょちょちょ何やってんの!?」
「頭下げろツナ!」
 バリーンと映画みたいにフロントガラスが割れ、俺はあたふたしながらスナックの散らばる後部座席に頭を抱えてうずくまる。急に吹き付けてくる冷たい風。俺は顔を上げる。山本の銃口の先にはボムを両腕に抱えた獄寺くんがいる。何か叫んでいる。口いっぱいにくわえた煙草のせいで、ふんがー!、としか聞こえない。
 そして空いっぱいに、花火のようにダイナマイトが散る。
 山本の新車は廃車になった。タクシーを待つ間、山本は「どこがマンネリだよ」とニヤリと笑った。顎がざっくり切れて、そこから血がだらだらと流れ出していたけど、そんな痛みも気にしないみたいに煙草を吸っていた。
 俺は獄寺くんと、さっきまでは山本と行くはずだった別荘に歩いて向かう。何て言うか、手を繋がずにはいられないし、時々キスせずにはいられない。
「十代目と二人きりのクリスマス・イヴは誰にも渡さねえ!」
 これだけ堂々と奪われたら、恥ずかしくない。





2008.12.23/日記にて。バトン遅刻罰ゲームとして『ストライプらばーず』の風様へ献上の品。