リトルゴッドファーザー・愛のテーマ




 衛星放送で紅白歌合戦を見た。リボーンとは三日前から連絡がつかない。ヤサも空っぽ。行きつけのホテルや、彼お気に入りのカジノも探したがいなかった。多分、イタリアにはいない。そんな気がする。ランボと一緒にどっかふけてるんだろう。こちとらリボーンがしなかった分の仕事がたまりにたまって、さっき小林幸子が毎度の如く派手の十乗くらいの衣装で出てくるまで仕事が終わらなかったと言うのに。
 山本は小林幸子を見終えると、そのままソファに沈んだ。彼もリボーンが消えてから一睡もしていない。獄寺君は目の下にくまを作りながら、律儀に自分に付き合っている。
「もういいよ、獄寺くんも休んで」
「ボスを差し置いて休めません」
「部屋に帰っていいよ。オレ以上に働いてるじゃん」
「オレの家はここです」
 俺は寝室から毛布を取ってくると山本の上にかけ、暖炉の火が消えないように薪を足す。獄寺君は、こいつは風邪なんかひきゃしませんよ野球馬鹿めと言うが、それもポーズだろう。喧嘩ばかりしているけれど、別に憎んでいるとかいう感情じゃないんだ。
 歯を磨くのも顔を洗うのも面倒でそのまま寝室のベッドにダイヴすると、戸口に獄寺君が立っている。そこで歩哨よろしく番でもするつもりなのだろうか。
「早く来いよ、もう!」
 思わず声が荒くなるが、獄寺君がそれで気を損ねた様子はない。執務室の明かりを落とし、寝室に入ってくる。ドアを閉めると真っ暗だ。待っていても隣に来る様子がないので、乱暴にマットを叩いた。ようやく空気が動いて、隣に座った気配。
「寝るよ。おやすみ」
 一言いって布団をかぶった。それから少し躊躇いがちに獄寺君が隣に潜り込んできた。
 クリスマスやハッピーニューイヤーにかこつけてそういうことをするのは、何だか考えとしてうんざりしていたし、それに何より現実問題、気力体力共に尽き果て指の一本だって動かしたくないし、脳細胞の一欠片だって働かせたくない。疲れ果てた肉体と魂の命ずるままに深く深く、泥のように眠りたい。目覚めた時に新しい朝、新しい一年? うん、何か輝いて見えるものがあればいいけど、今の俺の心は渇ききっている。冬の乾燥肌ならぬ乾燥心。これも全部仕事ほっぽりだして消えたリボーンのせいだ。帰ってきたらがつんと言……ああ、もうめんどい。
 閉じているのに目蓋が重い。心は眠りの奥底みたいな所へ向けてどんどん落ちていくのに、いつまでも考える心の言葉が止らない。リボーンのせいだ。仕事のせいで年賀状も書けなかった。あ、もう年賀状は書かなくていいのか。でも母さんが悲しむ。俺もう三日以上母さんに電話してない。畜生、なんて年末だ。
 がさり、と音がした。乾いた音。シャツの腕が頬に当たる。頭を抱き込まれている。自分の息があたたかい。
 目を開けた。獄寺が眉間に皺を寄せながら、俺を抱きしめている。白いシャツの腕が俺の頭を胸に押しつけ、その上から覆い被さるように獄寺君の顔がある。
「まだ起きてるの、獄寺君。別に返事しなくてもいいんだけどさ。あのさ」
 俺は獄寺君の背中に腕を回し、目蓋を閉じる。
「ありがとう」





獄ツナ好きな人へ送った年賀状小説。