殺し屋さん(冬季休業終了のお知らせ)




 年始のテレビもまただらだら見ていると、霊能力者っぽい人が出てきて、この人が色々言うだけで二時間も番組があるらしい。
「宝くじが当たる日を教えてくれるのよー」
 ママンはメモ帳とボールペンを片手に真正面のコタツ席を陣取る。リボーンは横になって見やすい場所にごろりと転がり蜜柑を食べている。ランボは台所に一番近い席に座る。
 リボーンは運命を信じているんだろうか。あのおしゃぶりを、十年前は奴が赤ん坊だからつけていると思っていた。今は違うことを知っている。アルコバレーノ。呪われた赤ん坊。
 ランボは、運命やその他占いの言うことを信じたものか、今ひとつの確信がない。その理由は、彼自身、いささか反則的な手段で未来を覗き見ることをしてきたからだ。十年バズーカ。もうほとんど使うことはないが、今も荷物の中に入っている。また十年前からの呼び出しが頻繁な時は頻繁で、その度に様々な記憶が、ああ、これはこんな光景だったのだと納得させられる。
 例えば大量のチョコレートや、風情のある旅館の光景や、ぎょうざを運んできた卵肌の女の子が誰なのか、などだ。ママンの夢を壊すようなことを言えば、今テレビに出ているこの霊能力者は十年後は影もない。
 だからランボは知っている。実は知っていることがある。オレはもうすぐ傷を負う。この身体に大きな傷を負い、そしてリボーンの姿を見失う。
「リボーン、蜜柑足りてる」
「うるせーぞ。テレビ中話しかけんな」
「まあ、リボーンちゃんったら冷たいんだから」
 しかしママンは遠慮なく、じゃあお茶をお願い、と空の急須を手渡す。ランボは笑って台所に立つ。
 運命は変えられるのだろうか。今のランボの記憶にある限りでは、ボンゴレファミリーはその悲惨な事件から逃れることは出来ない。しかし、既に何かが変わり始めている。抗おうとしている。運命を変えようとしている。
「リボーン」
 CMになったので話しかける。
「お茶は?」
 リボーンは手を振る。振り向きさえしない。
 多分、今、こうやってリボーンを甘やかそうとするのは正しい方法じゃない。ランボはお茶をいれて、ママンに手渡す。熱い、とママンが笑う。ママンも、これから何が起きるか何も知らない。多分、宝くじも当たらないと思う。
 立ったついでだから、とランボは外に出た。
「お煎餅、オレ達で食べ尽くしたみたいだから、買ってきますよ」
「気を遣わなくていいのよ、ランボちゃん。家族なんだから」
 玄関を出た途端、ランボは走り出した。誰かの為に強くなろうと思ったのは初めてだ。それが十年来、殺してやると追いかけ続けた相手だというのは奇妙な話だが、それでもランボはリボーンを失いたくない。リボーンを失うことがなければ、きっとママンの笑顔が失われることだってないはずだ。また来年も、こんな幸せな正月を過ごせるはずだ。
 コンビニに着くころには息切れしてしまった。しかしランボは帰り道も走った。顔を上げると、玄関先に鼻の頭を赤くしたママンとリボーンが待っていた。ママンが笑って手を振っている。リボーンの口の動きは、早くこねーと風邪ひくだろーがアホ牛、と言っている。ランボは溢れそうになる涙を拭って、ラストスパートをかけた。





リボラン年賀状小説の続きのような。心持ち原作未来編直前。