殺し屋さん(正月休業中)




 リボーンと二人で日本にいる。三日前から。アジトの電話も携帯電話も全て「殺し屋さんは12月29日から1月3日までの六日間営業を停止しております」というふざけたメッセージが流れ、実際に仕事を持ってきたボンゴレの構成員は追い払い、メールも見ずにすむようパソコンを風呂の中に封印し、手紙を燃やし、糸電話の糸を切り、伝書鳩を撃ち落とし、三日前から日本の並盛町の沢田家でだらだらしている。
 俺は常に牛柄の服を着ている。いつものシャツではない。十年前、よく着ていたあのタイツのタイプだ。来年は丑年だそうだ。ママンが、縁起がいいわね〜と喜んで、とても待遇がいい。隣のヒットマンは年中無休のヒットマンっぽい感じで黒スーツのままだが、十年前から勝って知ったる沢田家か遠慮無くママンの好待遇に甘え、スーツのままくつろぎ、だらだらと年末年始のテレビを見、茶を飲み、蜜柑を食べ、コタツから出ない。
 勿論、紅白歌合戦も見る。小林幸子の衣装をリボーンは食い入るように見つめている。目の奥が輝いている。こんなリボーンは見たことがない。
 ゆく年くる年が始まるとママンがあくびを始め、明日は三人で初詣に行きましょうね。寝坊しちゃ駄目よ。早く寝てね。と声をかけ、先に引っ込む。リボーンはゆく年くる年はつまらなかったのかチャンネルを変え、午前0時を挟んでぶっ通し5時間くらい放送するお笑い番組に合わせる。ここでも着ぐるみの類が出てくると目がらんらんと光る。
「あのさ、俺だって着ぐるみみたいなもんなんだけど」
 一応、自己主張をしてみるが、届かない。溜息が出てきた。
「何で、俺のことつれてきたわけ?」
 独り言を呟くと、返事が返ってきた。
「つれてきて悪いか」
「……悪くないけど」
「ならぐだぐだ言うな」
 これは彼なりの愛情表現なのだろうか。しかしコタツの上から蜜柑がなくなると取りに行かされるのは自分だし、今また「エスプレッソが切れた」と舌打ちをするリボーンの為にコーヒーをいれに行かされるのも自分だ。っていうかエスプレッソて。眠れなくなるぞ?
 エスプレッソをすすりながら蜜柑を食べるリボーンは寝る気がないらしい。こちらはもう目蓋が重い。うつらうつらと頭を揺らすと「寝るな」と銃口がつきつけられた。
「もう寝ようぜ。明日はママンと三人で初詣も行くし」
「オレはこのお笑い番組を制覇した後初日の出も見て初詣も行く」
「寝ないの?」
「付き合え」
 あと居眠りした罰ゲームにお前その格好で初詣な、とリボーンは言い、何それと文句を言う前にリビングの窓にブルース・ウィリス似の男が立っていて、リボーンは、お!来た来たと嬉しそうに窓を開け「タノマレタ、オイテク」とリボーンに木箱を渡した偽ブルース・ウィリスはランニング姿のまま生け垣を跳び越え正月の闇へと消える。
「おあつらえ向きに衣装も届いたぞ」
 木箱の中にはお賽銭用のユーロ硬貨と牛柄の全身タイツが入っている。多分、明日これを来て初詣に行くのは免れない。しかし、リボーンは離れたところから俺を見て笑ってるんじゃなく、多分、嬉しそうに俺の隣を歩くんだろうと思えたので、まあ、許した。





リボラン好きな人へ送った年賀状小説。