乳白色




 晩秋という言葉が似合わない。真冬のように寒い。私は目を覚ます。裸の肩が冷たい氷のようにベッドに横たわっている。私の肩だ。誰か触れただろうか。さっきまで感じた温もりは何だったのだろう。夢。私は彼女の夢を見ていたのだろうか。
 私が殺すことのできなかった元相棒の女。私は彼女に生涯再会しなかった。でも彼女は時々こうやって顔を出した。夢の中。記憶のはざま。彼女は柔らかい乳房を私に押しつけて、素直な無邪気さで私を求めた。私の肌を求めた。私達は時々もつれ合って、抱き合って、眠り、そんな夜私の肩は凍えることがなかった。私は彼女が恋しいのか。再会することがあれば彼女を殺さなければと思っているのに、夢の中の私、記憶と幻の境界に立って彼女と再びあいまみえた私は彼女の首に手を伸ばそうとしない。彼女のなすがままだ。柔らかい愛情を押しつけられるまま、現実の夜明けでは肩を凍えさせ眠るだけ。
 白いベッドを出てシャワーを浴びる。厚い湯気のカーテンが私の世界を遮る。私が見ることのできないどんな色も最後にはこの分厚い白に包まれて終わるのだ。きっと私が死ぬ時も、同じカーテンが私の目蓋を覆うだろう。
 鏡に私の顔が映る。白くぼやけた平面の向こうの世界で私と同じ顔をした女が黒い髪から湯を滴らせている。鏡の向こうも湯気に包まれとても温かそうだ。じゃあ、肩は? まだ凍えている私の肩。鏡の向こうのお前の肩も凍えているのか?
 指を滑らせ、白く曇った鏡の上に彼女の名前を書く。本当の名前じゃなかったかもしれないけど、構うことじゃない。xxx。今朝の夢の中では、あなた、キスをしなかったから。