「それでも夜は明ける」感想



ちょっと文章っぽく、さらにちょっといい内容っぽいタイトルのつけ方はここんとこの流行だと思うのですが、映画の内容としては原題そのままの方が相応しいんではないかと。
というか邦題はちょっと希望に溢れすぎてるんではないかと。
今年の納得いかない邦題暫定一位。
だって母なんか「あれでしょ『陽はまた昇る』でしょ?」って言ったんだぞ。
違う映画だし!

アカデミー賞を獲ったという話を聞いても、わざわざ辛い目に遭いたくないと観に行くリストから外していたのですが、監督が『シェイム』の人だと知って「じゃあ観ざるを得ない…」と映画館に足を運んだのでした。
淡々と容赦なく描かれるそれがどれだけ痛くても観なければならない、と思った。
目を覆いたくなる残酷という意味では、『ジャンゴ』の奴隷格闘のシーンで素手で殺させてたのの方が辛い。
こちらは目を離せない。どれだけ苦しい時間が続いても。

観る前から考えていたのは、これは感動させるための映画ではないだろうということだ。
むしろ必要なものは痛みだ。
実際、主人公の黒人が12年間の奴隷生活を抜け出すことができたのは努力や勇気や奇跡ではなく、ラッキーが訪れたからにすぎない。
ここまで生き延びる努力は勿論あったし、ラッキーが訪れたのは奇跡なんじゃないのと言われそうだけど、些か条件の良かった者に訪れた無作為な幸運という感が私には強い。
だってそのシーンは決して感動のためのシーンじゃないんだぜ。
農場の他の奴隷たちは救われることなく、そのまま残され、置き去りにされるのだ。
どんなに後ろから呼ばれても彼だけが平和な世界に帰ってゆく。
逆に残酷だ。
救われた命がどれだけ貴重か、そのほかにどれだけ多くの苦しみと死があったものか。
残酷な痛みをこそ刻みつける映画だ。
うん、だからそのために観た。
痛みをこそ共有しよう。

しっかしアメリカっていうのは本当に野放図な大自然なんだなあ。
雄大な、とか言うよりも野放図だ。未開の大地だ。
しかもやたらと夕焼けが綺麗だったりして…ホッと息をつきもするけど、その先どんな不幸が待ち受けているのかと不安だったね。