「ラヴレース」感想



フライヤーやポスターのポップな感じに騙されるな!
しかし『ファイアbyルブタン』鑑賞の際、不快な目に遭った身としてはこう言わせてもらう。
映画館に来た男どもざまあみろ!!

伝説のポルノ映画『ディープ・スロート』の主演女優リンダ・ラヴレースの物語っつったら、しかもR-18つったらそりゃあ、まあ、そういう映画だと思うじゃないですか。
そういや私は何でこの映画観ようと思ったんだっけ…ああ予告のラヴレースがめちゃんこ可愛かったからか。
自分の出演した映画を「他の映画と変わらないわ」と言うと、女性ジャーナリストがこう問う「じゃあ他の映画にないものとは?」。
彼女は屈託なく笑い、こう答える。
「私かな」
この瞬間、あ、観よう、と思ったんですね。
軽い気持ちでした。
映画の後半、劇場が息苦しいほど静かになるとは思いもしなかったよ。
だがこの裏切りこそ、予想してなかったにしろ、私が望んだものだったのだ。

やー、予告を観た時点でね、彼女がポルノ映画に出演するきっかけになったのが夫の存在で、こりゃDVがあるなと匂わされていたのですが、この映画において主題とは正にそこです。
この映画は苦しいほどにDVサバイバーの物語なのだ。
前半で描かれた屈託のない笑顔、幸せな恋、夫との生活、スターに祭り上げられた華やかな日々の下にどれほどの苦しみと絶望が押し込められていたことか。
それが後半で徹底的に暴かれ観る者に痛みを与える。
タイトルから用いられるフォントのポップさ、明るさとは裏腹に、エンドロールの音楽までシリアスです。
いやー、明かりが点いたシアター内、静かでしたよ。
皆、無言でシアターを出ていましたよ。
私はその様子に若干胸がすきましたがね。
どうだ、求めていたものと違っただろう!
女が自分らに都合のいいものとばかり思うなよ!
まあ私もこういう映画だったとは意外なんだけどな!!

skmtさんとお話しする際「セックスとは暴力である」というテーマがよく出るのですが、今年観たセックス描写のある映画の中でそれが一番顕著だったなあ。
そりゃ描かれるのがDVだからさもありなんなのですが。
相手を屈服させ、従属させる。
所有物としての扱いが日常全般までくると、これはもう全く奴隷ですよね。
だが支配者として君臨する夫が、所有物を失った時に脆く崩れるのが、そりゃ同情はしないのですが、支配することで自分を保つ「男」という存在の弱さね。
勇気を出せば逃げられるのかなあ。
DVサバイバーの講演を聞いたことあるけど、まず勇気を出すことが大変なんだ。
リンダにも何度か救いの手は差し伸べられかけたんだけど、悉くそのチャンスが潰えるのが辛かった。
でも彼女は勇気を出し、自分で檻から逃げ出した。
あ、ちなみに彼女が逃げた後、当然夫は追ってくるのですが、そこで彼女を匿った映画出資者が待ち構えてるのね。
そんでベルトの鞭で夫の背中をビシバシ打ち据えるのね。
「もっと血が出るまでやれよ!」って思っちゃったけど、やあ今年見た鞭打ちの中で一番よかったわ。
鞭打つ側と感情を同じくするって、中々ないもんね。

実は直前に観た『あなたを抱きしめる日まで』よりも泣いているのですが、一つ好きなシーンが、映画の本編を撮り終えた彼女が写真撮影をするシーン。
写真家が会話の中で彼女の心を解きほぐし、自然な表情を撮っていくのですが、並べられた試し撮りの写真を見たリンダが涙ぐむんです。
「私、キレイ」って。
あの時点で彼女は相当辛い状況にあっているんだけど、そこでほんの束の間自分の肯定というものがされる。
女性が自分のことをキレイだと肯定できること、それは誰もが味わえる幸福じゃない。
最低最悪の日々の中、美しい自分を手に入れた彼女を思うと涙が出る。