「Dr.パルナサスの鏡」感想



優男はペテン師であり、旅する老人は愚者であり、若い娘は生贄であり、悪魔はやはり最後に勝つ勝負師。お伽話のような現実。現実のようなお伽話。これは非現実の物語だけれども、しかし私達はいつもこんな世界の中にいるじゃないですか。ふと扉を閉めて自分の心の中にもぐれば、何も不思議はない。パルナサス博士の鏡の中の世界と同じものが広がっている。ただ、一人じゃ悟れないのがやっぱり我々俗人で、なかなかバッグや小切手の束ごと寄付して晴れの人生を歩くようにはいかないのですが。

ヒース・レジャーと、彼の遺志を継ぐ三人の俳優が演じる男は、もう本当に悪党で、普通に腹が立つくらい悪党で、だからああ男だなあ、と、男が持っている遺伝子の二面性、魅力的である部分が同時に嫌悪するような面であるのを見事表していて、こんな悪党なのに、でも悔しい、なんか格好いいって思っちゃう。

ええ、ごく個人的な好みの話をしますと、パルナサス博士とパーシーの関係がツボでした。最終的にはパーシーのヒモなの? 博士? いや思い切り事業とかが上手くいってるはずのパーシーが、しゃーねーな、みたいに博士と人生を共にしてくれたんだよね。結局残されたのが愚かな老人と小人っていうのが、そして売るのが小さな夢というのが、お伽話が真理を表す心地よい皮肉でした。