「愛の流刑地」感想



愛の流刑地、略して愛ルケ。
開場が始まった途端、壁際の長いソファにぎっしり座っていたお客が一人もいなくなった。
何だか照れが出てしまい、時間差で劇場に入った。

「失楽園」は理想を描いたファンタジーだったのだと思う。
心中は愛の行く末の理想で、キクジはそこには辿り着けない。
冬香は命を差し出して、一人でそこへ昇った。
だから窒息死でも死に顔が微笑んでいたのは、それでいいのだ。
もうファンタジーに足を踏み込んだ存在だったから。

結構、気に入ってしまった映画なので、感想を言葉にしようとすると
なかなか上手くいかないなあ。
漠然とした、気持ちのよい感覚のままでとっておきたい気持ちもあるんだ。

ので、リアルタイムに心中ツッコミ入れてた感想をどうぞ。

逮捕−取調べ。
なんで佐藤浩市のやる役ってサドっぽく見えるんだろうね。

留置所。
娘との金網越しの対面。親子に見えない。年の差カプ引き裂かれるの巻に見える。
ぶっちゃけ、こっちの方が好みだ。いい娘だなあ。
こんないい娘を泣かすなんて、本当に、本当の意味で、悪い男だ。

弁護士登場。
(映画館の帰りに美容室に行ったら、この弁護士役の陣内みたいな髪型にされた。
指定したカットブックの写真より短いどころか、ふんわり感の欠片もねえんだが!)

裁判開始。
検事の質問の仕方は、確かに気分を逆撫でする。スクリーン越しなのに、される。
そんなもんだから、スクリーンの中の冬香の夫は、とうとう激昂していた。
私の仲村トオルが!
私の(大好きな絵本メイシーを朗読する唯一にして最高の朗読者である)仲村トオルが!
ちなみに夫は「この男が妻をたぶらかしたんですよ」と言ったが、
どうも客観的に見て、そのとおりだった。

しかし冬香の方も勝負下着で来てたような気がしてならない。

キクジの夢の中に冬香が降りてくる。
水中を泳いでくる寺島しのぶは…ぶちゃいくだった(気づきたくなかった…)。

「あなたは死にたくなるほど人を愛したことがあるんですか!」。
予告で見たよりもぐっときた。

2種類の男女。
エクスタシーを知る女と、知らない女。
エクスタシーに導ける男と、導けない男。
鉄コンに出てくる若い刑事が不感症で、先輩が遠くを見ながら「オーガズムか…」
と呟いていたのを思い出した。
エクスタシーか…。

検事と副部長、実は。
佐々木蔵之介の激しい役どころを初めて見たのでびっくら。
実は、あの雨の非常階段のシーンが一番ハアハアしたかもしれん。

母、登場。
富司純子の証言が終わったあたりから、周りですすり泣きが聞かれる。
実は自分もちょっと、ぐっときており、富司純子の涙と、周囲の涙に
もらい泣きしたのかなあ、とその時はその認識。
ええいああ、とか思ってたから。

懲役8年の判決が下されたキクジは、最後に冬香の手紙を読む。
小さな窓から射す斜陽に染められたキクジが
「やっぱり僕は選ばれた殺人者だったんだ」と呟く。
それだけを聞けば、もう電波か!?と思えるこの科白から、変に胸が押され
平井堅の曲が流れ出したら、もう駄目だった。

今までずっとツッコミいれつつ観てたのに、突然、それら真っ白に飲み込むように
涙があふれて止まらなかった。
まさか泣くとは思っていなかった映画だったので、自分でも驚きつつ
すぐ泣き止むだろうと涙を拭いたのだが、いつまでも止まらない。
しゃくり上げて、喉も引き攣りだす。

平井堅の歌がもう一度聞きたかった。
原作は、もう読まなくてもいいと思った。
満足したので、座席を振り返らなかった。
忘れ物をした。
帽子をなくした。