「美しい星」感想 師匠の「金星」が劇中歌として使われると知って、いつ公開かなと思っていたらいつの間にか県内で一番遠い映画館で上映中。やや諦めかけていたのですが無事(?)観ることができました。単館映画だと勝手に思い込んでいたけど、全くそんなことありませんでした。シネコンでやってる。 諦めかけていたのを観てみようと最後に背中を押したのはあらすじの文言。宇宙人と出会い覚醒した登場人物達が問題に巻き込まれ「傷ついていく」という言葉。人の傷つく様が見たい訳じゃない。ただ予告編で感動を押しつけてくるような映画の、観客に決まった感想を押しつけてくるような映画ではないということが、「傷ついてゆく」という静かな一言に表れていたので、見ておくべきだろうと。 結果的に観客である私も一緒に傷ついてしまったのだけれど。 作中に描かれる日常の中の嫌なもの、厭な男性、厭な同調感覚、厭な騙しの気配、厭な上っ面。これら全て自分の生活の延長線上にあるもので、しかも描かれ方がとてもリアル。たとえば厭な男性だと、劇中で男性をこんなに嫌いになっていいもんかと思いつつも嫌悪感を抑えられないくらい。劇中の登場人物が厭な要素から受ける傷は、日常の世界で自分が感じる痛みとほとんど同じで、観終えた時はかすり傷だらけだった。全部かすり傷ではあるんだけど完膚無し、傷のない肌は残っていない状態でエンドロールを見送っていた。 厭な痛みや傷はそれそのものが作品の主テーマじゃなくて、そこから本当のテーマ、映画が観客を運ぶ先がある。そこんところは私も充分に味わったよ。感想のちょっと早いまとめをしちゃうと、自分が観たかった日本映画を物凄く上質な形で見せられたし、日本映画を観た満足感は文句なしに満点。今年前半の邦画の中では間違いなくトップ。主人公である家族四人の演技はまさしく「私の見たい日本映画における演技」そのものだし、娘役の橋本愛さんの素晴らしさはこっちが望んでいたものを突き抜けて素晴らしかった。それと個人的には「世界ふれあい街歩き」でいつもお声を拝聴している中嶋朋子さん。可愛い。演技がすごく「お母さん」だった。家族、特に娘からしたら凄くイラッとする部分まで物凄く「お母さん」だった。 いや、この映画をお薦めするなら次の一点だけでも充分いける。佐々木蔵之介の揺るぎない美しさ。揺るぎない。動じない。その存在の恐ろしさは不気味というよりも美しい。存在の凄さをあまりに極まって感じると「西村寿行作品にキャスティングできないか…」と思ってしまう癖があり今回も考えた。取り敢えず誰でも一回は「中郷どうだろう、いけるか?」と考えてしまう。いや、寿行云々は抜きにして、とにかく佐々木蔵之介の演技だけでも観る価値ありなのに、リリー・フランキーの踏み外しながら現実の上で生きてる感じとか、感情を飲み込んで張り詰めた感じの亀梨和也とか素晴らしいのでね。 ラストシーンは、これまた印象に残る素晴らしい映画のラストがまた一つ増えた…。あの上から、そして地上から恋う視線がそれぞれに注がれるシーン、その背後に流れる冷たい音声、最高の一つ。 ただ日常的な痛みの蓄積がしんどいので、私は帰路に落ち込みました。 |