ドラックスとマンティス、 「醜い」という言葉が肯定したもの 今回はドラックスが新キャラのマンティスに向かって「醜い」と言うシーンにしぼった感想ですので、映画の致命的ネタバレはありません。やったぞ! ちなみにvol.2を観てからvol.1に戻るとドラックスが寡黙な復讐者であることを思い出して吃驚する。それくらいvol.2のドラックスは陽気に笑うし冗談にも積極的に加担する。もともと「踊らない」タイプのドラックスだけど、ガーディアンズの中では数少ない自分で選んだパートナーと家族をもって家庭生活を営んだ人なんだなあ。自分の手の中にあった幸せを失った者同士のドラックスとクイルが笑いあっているシーンは…いいですよね。現在が心を満たしてくれている。 他のキャラクターたちと打ち解けたことによって、ドラックス、また彼の種族の特徴が見えてきて、今回、映画終盤のショックの他の驚きポイントはここでした。 クイルの父親であり天界人のエゴに付き従うマンティスという女性。ドラックスが虫娘って言ってたけど、触覚とかだけじゃなくて本当にそうなのよねえ。映画の途中で壊れた宇宙船から放り出された時、ドラックスとガモーラの着地が綺麗に決まるのは当然として、マンティスも、そこ、自然に着地してるんですよ。そこのポーズとか見ると、ああ確かに虫娘なんだ、と頷く。 で、そのマンティスの見た目をドラックスが「醜い」って言うのね。茶化したり、嘲ったりする調子じゃなくて、逆に深刻なくらい真面目に「醜い」って言う。けど悪びれていない。悲惨な事実を告知したっていう風じゃない。驚きましたよ、そりゃもう。だって「醜い」という言葉は人を傷つけるための用法としか思ってこなかったじゃありませんか。実際、そう言われたら傷つくと思うのね。ブスの自覚があってさえ傷つくからね。マンティスは容姿を含め自分がどう見えるか、他者からの視線に晒されてこなかったので、醜いと言われて驚くんだけど、醜いという事実を突きつけられたことに傷つくんじゃなくて、他者の視線に驚いてるんですよね。自分がどういう存在か知らなかった、醜いと教えられた、そうだったんだ!という吃驚。更にドラックスが「醜くても愛されるなら、その愛は本物」と言葉を続けたことによって、「私は醜くてよかった」って笑顔を浮かべるくらい。これは「醜い」という言葉に対するフォロー? 発想の転換? いやいや、そうじゃないな…。 ドラックスが「醜い」という言葉を使う時、そこにはありのままを肯定する意思が込められている。貶す意図はない。ドラックスには、この宇宙に色んな種族の生き物がいて色んな星の色んな文化があるという生物的、文化的多様性の知識がある。彼は分かっている。また彼は自分の種族の価値観の上に立って判断し、行動している。自分を支える価値観への圧倒的肯定がある。そこで、自分の価値観の美から外れるマンティスを目の前にした時、彼は事実として「醜い」と正直に口にする。ドラックスは自分の判断の正しさに絶対的な自信があるから思ったことを黙っておけないんですよね…。っていうか馬鹿正直か…。ガモーラはマンティスが醜いと言われるシーンに立ち会って「そんなことない」とフォローするし、ドラックスをたしなめる。これがもうちょっと社会性のある態度なんだけど(あと本当にマンティスは可愛いんだけど)、ドラックスは譲らないのよ。 映画の全てに倫理的正しさ(現代社会の暫定的な正しさ)を持ち込み、キャラクター全ての科白にはメッセージ性があるとコントロールするなら、ドラックスには「醜い」と言わせないとか、醜いと思っていても己を涵養した自国文化ではない価値観に寄せて「可愛い」とか言わせなきゃなくなるのかしら? どう考えてもそんな映画はつまらなくて、表層的メッセージを与えられたって唾棄するだろう。ドラックスの「醜い」という言葉は、スクリーンのこちら側に媚びることなく、ドラックスの文化、ドラックスが物語世界を構築する一要素であることを肯定するものとして、正面切って使われている。「醜い」という言葉を聞くたび、それがギャグなどではなく肯定感を与えてきて衝撃だったなあ。 ドラックスにとってマンティスは醜いけど、それでも生きて自分の隣に座るのはこの広い宇宙で出会って隣同士になったからは当然のことで、友達にもなるし、マンティスがペットとしてでもエゴから愛されていることに「よかったな」と祝福を惜しまない。そう言えばドラックスは岩石みたいな身体なのに座り方が可愛いんですよねえ、vol.1の時もだったけど両足を投げ出してテディベアみたいに座っている。エゴの星の美しい湖沼の風景に微笑んでいるけど、動かさない表情の下に涙を流すほどの悲しみが生きている。妻と娘のことは一時たりとも忘れない、その悲しくつらい過去の上に立って現在を楽しく生きられるようになったのは新たに家族を手に入れたからだ。帰る場所があることは人を強くする、な……。 |