「サラエヴォの銃声」感想 今のところ今年の映画ベストはこれかもしれません。第一次世界大戦の引き金となったオーストリア皇太子夫妻暗殺事件から100年後の同じ場所を舞台にした映画。それまでは「沈黙―サイレンス―」が首位だったのですが、映画の尺、演出、科白、ラストシーンからエンドロールとその長さにいたるまで、兎に角自分にしっくりいく映画だったのです。 最前までBL俳句誌『庫内灯3』の原稿にかかっていて、旧ユーゴスラビア周辺のことを少し調べており興味の範囲とも重なっていたのですが、いや…一発で全部は理解できない。物語の舞台、暗殺現場と同じ場所と言いましたが、そこはホテル・ヨーロッパという老舗ホテルで、物語はこの中で全て進行するのです。暗殺事件から100年を記念する催しが行われる日、満員のホテルにはフランスからVIPが訪れるが、その実ホテルの経営は火の車、賃金が払われず2ヶ月もタダ働きの従業員はストライキを計画し、屋上では暗殺事件を振り返るジャーナリストのテレビ番組が収録されている最中、暗殺事件の犯人と同姓同名の男が現れる。85分の尺の中、視点は様々にまた鮮やかに切り替わり、特にジャーナリストと謎の男の間では激しい議論が繰り広げられる。そのスピードについていこうと頭をフル回転させつつ、しかし科白を追う頭の最前線は、この言葉の応酬は何て気持ちいいんだろう、台本を口に出して読んでみたいと歓喜した。 (台本を口に出して読みたいと思った映画、他には「ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!」で、これは複数人数で読み合わせをしたいタイプ。) この映画は自分が小説を書く時の理想像を映画にしたような、創作者兼読み手としての自分にとって心地いい映画なんですよ。色も、光景も、間も。だから誰かに薦めよう、名作!、と思うよりまず自分の中で満足があって下手するとそこで完結しちゃってる。久しぶりに映画のパンフレットを買った…と思ったけど「沈黙」でも買ってた…。 ラストシーンが佳かった。ホテルの監視カメラが映し出すロビーの夕景、そこを横切る人影ひとつ、響くのはロビーに流れるBGMのジャズだけ。それがそのままエンドロールへと流れ込む。佳いエンドロールと言えば「300」のように格好いいもの、「ムーンライズ・キングダム」のように音楽とあったもの、「マダガスカル」や先日の「神様メール」のように見ていて飽きないものなど色々ありますが、個人的には「短いもの」です。これは難しい。昨今では尚のこと難しいですが、「サラエヴォの銃声」は適度に短く、ジャズの曲、1曲のうちに終わる。これがよかったです。ちなみにエンドロールで下から上へ流れるものより名前が横並びに出てきて1枚1枚切り替わるものの方が好みで、その両方を兼ね備えたマイベストなエンドロールを一度だけ見たことがあるのですが、昔WOWOWで一回こっきり観ただけの上、それも偶然みた映画なのでタイトルを覚えていないという…。ある死刑囚の記録みたいな感じのタイトルだった気がするのですが。あれもいいラストシーンだった。結局ある男の死刑が執行されて、看守か誰かが夕景の建物脇で震えながら煙草を吸っているという。 話が脇に逸れまくっていますな。 監視されているVIPは何者なのか、ストライキはどうなるのか、ジャーナリストとの議論はどこへ行き、謎の男は一体何をするつもりなのか。一人ひとりの運命が最後はどっと雪崩れ込む、一瞬の沸き立つような狂騒の後に虚脱と皮肉な現実が残る、それでいて後味は悪くない。少しぬるくなった水を飲んだような心地。 |