「SING/シング」感想



実はミニオンズをちゃんと観たことがないので、これが初のイルミネーション作品。動物がいっぱい出てきて貧乏劇場の歌のコンテストに出場して最後は感動させられちゃうんでしょ…そんなスレた考えをしちゃいかんと思うのですが、最初の印象はそんな感じだったんですね。声優も本業以外の人の名前が並んでたしね。ここで幸運だったのは「SING」が今季の三大ゴリラ映画だと教えられたことと、吹替気にならないよという感想です。県内の上映は字幕がほとんどなくて、その感想を聞かなければ諦めるところでした。
で、実際観たら、吹替が気にならないどころか、この人だったのかと後で気づく始末です。キャストをほぼ全員忘れた状態で臨んだのはよかった。興味がないせいだったけど、お蔭で先入観なく観られたし、劇場支配人バスター・ムーンの声だって、ウッチャンの顔が全く浮かばないもの。芸人さんも事前情報をしらなかったら声あててるって気づかなかっただろうなあ…。とは言え私、田中真弓さんの声とあの演技が好きでして、映画序盤から既に「たーのしー!!」モードに入ってましたね…。
声も、歌も、キャラクターに繋がっているこの作品。最後のステージは圧巻で、事前情報ほとんど忘れていた私でも流石に「スキマスイッチ…?」「この歌声は…MISIA……」と気づかないではおれない。で、本業のシンガーだけじゃなく全員が納得の歌声なんですよ。後で音楽ナタリーの対談記事を読んで、ブタのデュエットがまーやとトレエンの人だったと知って後で鳥肌立ちました。いや…事情があって元歌だったのかなって思ってた…。訳詞が許されずに英語で二人が歌ってたんですね。気づかなかった。凄い。
歌と言えば山ちゃんが演じているネズミのマイク、最後は強風に飛ばされそうになる演技をしながら歌い続けているんだけど凄い…凄すぎてむしろ恐い…。マイクに関しては歌とパフォーマンスだけじゃなくて、キャラクター造形としてもまず最初に感心したキャラクターだったので、ちょっとこの話を。
登場するキャラクターはそれぞれ欠点を抱えているもんです。特にこの物語で言えば、劇場支配人はその明るさと軽さで独断専行なところがある。そしてネズミのマイクは思いやりがない。社交性はあるけど社会倫理は低い。冒頭のストリートライブのシーンで、喘息持ちの通行人から金を巻き上げるシーンがあって、このキャラはやばくないかと思ったんですよ。しかも通行人は発作を起こしかけてその場で吸入してるんだけど、省みないし、ダメ押しの一蹴りまでする。普通だったら悪役になりそうなものですが、彼は主要人物なの。で、性格の悪い主要人物のまま変わらないんですよ。最後にいい人にならない。そこが凄いと。彼は実力もあるけど傲慢で悪役のごとき性格をしつつ、最後までそれを貫くんだけど(しかも歌うのが「マイ・ウェイ」)、彼はそういうキャラクター造形で尚、素晴らしい芸術には素直に感動するんです。そこがちゃんと描かれてて、うわっ、と驚いた。最後に恥ずかしがりやのゾウの女の子の魂の歌声を聴いて感動した彼は、決して善人に目覚めた訳じゃない。でも美しいものに対する純粋な感動を隠さない。多面的キャラクターをリアルに存在させるこの造形と脚本の力よ…。
映画を観終えた夜、ウキウキでムービーウォッチメンのSING評を聞きに行きまして、そこで言われて初めて気づいたんですが、全く言葉で説明してないんですね。徹頭徹尾描写によって語っている。あんまりにも自分の中に情報が入っているので当たり前のように感じていたけど、全部、言葉じゃなかったんですよ。こうなってくるともう、ほんとに凄い映画を観てしまった、と…。
いや楽しい映画でした。映画の頭から尻まで全部楽しい。上質なコメディはシリアスを孕んでも尚笑えてしかもシリアスも心に滲みるのだ…。練り込まれた大団円には素直に感動していいのです。子供がいっぱいの映画館で映画が終わりふっと明かりが灯る、そこへどこからともなく「面白かったねー」という声が聞こえてくる。そうだね、面白い映画だったね、と頷かずにはいられない。
あっ、三大ゴリラ映画ね! アクション、親子の対立と絆、赦し……。本当にいいゴリラ映画だったよ。お父さん…お父さんに弱いんだ私は……。