「IT/イット"それ"が見えたら、終わり。」感想 パワーアップしとる。 旧作からパワーアップしておる。 キャラクターの魅力と青春群像劇の味わいが格段にパワーアップしておる! ピエロ恐怖症量産映画「IT」。ご多聞に漏れず私も幼少期にやられたクチですが、大人になってから観てみると、前半はホラー映画の皮を被った甘酸っぱい青春群像劇、後半はホラー映画の皮を被ったトラウマを克服できない大人達の冒険物語だ、と思うようになり、今回の映画でその認識は間違っていなかったと確信しました。 甘酸っぱく切ない夏の終わりを感じさせつつも胸の中に勇気が満ちる負け組青春群像劇、それが今作「IT」です。 ……と、この認識には自信を持っているのですが、旧作・リメイク通じて(今は原作の話は置いておきます)この青春物語がホラー映画の皮を被っていることが問題です。いや……怖くない。大して怖くはないんです。ただホラー映画の王道的手法を満タンに詰め込んでいるから、怖いのが苦手というか、ホラー映画の手法が苦手な人にゴリゴリお薦めするのは気が引ける。例えば暗所で気持ち悪いモンスターが追っかけてくる描写が苦手な人とか。でもそれは恐怖を感じるというより条件反射的に吃驚するということだと思うので、常に顔を覆う準備をしておけば大丈夫じゃないかな…。正直そういうシーンの半分くらいは怖くないよ。 いやー、いい青春映画だった…と余韻を噛み締める帰り道、『バトル・ロワイアル』が描写の過激さとは裏腹に直球青春小説であったことを思い出しました。作者の高見広春もスティーブン・キングの影響をもろに受けてますからね。むべなるかな。 ここから旧作との比較を交えたネタバレ感想を。続編で描かれるだろう内容に関してもネタバレしていますのでご注意を。 主人公の少年少女たちは皆、身体的特徴、家庭環境や人種などでイジメの対象になっているクラスの負け組たち。その彼らが夏の冒険で己の中の恐怖と実際に街を襲う恐怖に同時に対峙し、成長していく訳ですが、この恐怖の根源となる部分をより鮮明に描くことでイジメ部分とか家庭内問題部分のキツい描写も増しているものの、ホラー描写としてはちょっと行き過ぎちゃって怖くなくなったりもしたけれど、恐怖に打ち克ち成長する様の見応えは旧作よりも増していました。 個人的にパワーアップ度が一番感じられたのはエディ。リッチーが「スパゲッティ」と呼んでくれないのはちょっと寂しかったし、喘息の薬を投げ捨てた時は「うおーーーーい! 武器を捨ておったーーーーー!」と思ったけど、あれは母親と共依存の自分の殻を捨て去ると同時に旧作との決別なのかもしれないと思うと第2章での生存を期待したいんだけどどうかなあ…。エディが死ぬのは原作から決まってることだもんなあ…。 ベヴァリーがイジメられる理由も顕著になってましたね。でもめちゃめちゃ魅力的だった。可愛い。一月の残り火のくだりは個人的に泣きポイント。映画「ラブレース」でも夫からのDVに遭う最中でAVに出演するリンダが、DVの事実を知らない撮影スタッフが撮ってくれたスチール写真を見て「綺麗…」って涙ぐむシーンがあって、私、このシーンが大好きなのですが、苦難の中にあって、苦難を受けているが故に報いられるのではなく、ただただありのままに本人が肯定されることに胸を打たれるんですよ。しかし第2章の始まりもきついことになりそうだなベヴァリー。 他にもマイクの役割がベンに移ったり、バウワーズの噴出するような憎悪の出所がちゃんと描かれたり(ここ高得点)色々あったけれど、今回一番の改変であり、同時に喜ばしい改変だったのは、スタンリーとITの接点。旧作ではスタンリーだけITとの接点が薄く、ペニーワイズとの対決に向かうくだりも同調圧力に負けちゃうところが可哀想だったのですが、今回は事前にバッチリ襲われたお蔭で仲間との結束が強くなった。ユダヤ人設定も結構活かされたのではないかと。ボーイスカウトの誓いの科白とかはなくなっちゃったけど、アメリカ映画を観ていて時々見かける「自転車を車道に転がして放置」を仲間たちが地で行く中で一人自転車のスタンドを立てることで彼の生真面目さも描写されていたし、とても良かった。あと可愛い。 っていうか少年少女全員可愛い。 子どもたちがいとおしい! 今回のペニーワイズはメイクから邪悪さを醸す分、旧作ほど怖くはないのでもう1回くらい観てもいいかもしれない。 っていうかペニーワイズな! 勢いで旧作をレンタルし帰宅して速攻観たのですが旧作のペニーワイズなんであんな怖いの!? 笑顔で画面に映ってるだけなのに、下手すっと静止画なのにどうしてあんなに怖いの!? なんなの!? いや笑顔っていうか旧作のペニーワイズ…とにかく怖ぇよ!! |