秘め事たれば貴下も知らぬ間に






「いやよ」
「キスだけ」
「だめよ」
「どうして」
「その気になってしまうわ」
「その気になってほしいんだ」
 男にしてはなよやかな手つきがするりと踝を包み込めば、触れ合った膚の間で血が騒ぐ。
「いやだわ」
 長崎は目を覆う。
「だから、キスだけ」
「非道い人」
 キスは足の甲に触れ、カルピスを飲んだ冷たい舌がそっと足首を撫でた。長崎は足を伸ばす。福岡はそれをぐっと掴んで足首の内側に吸いつく。
「汗くさいでしょう」
「ひんやりしてる」
「それはあなたの舌だわ」
「君もさ」
 私、今夜あなたの部屋に行く気はなくてよ、と長崎は冷たく言い放つ。福岡は唇の片側だけ持ち上げて、じゃあ待ち合わせを、と囁いた。
「どこで」
「表の、松の木の下」
「外なの?」
「月の浜辺を散歩しよう」
「今夜は闇夜よ」
「夜明けの前には昇るさ」
「そんな時間まで一緒にいるの?」
「きっと君は帰り道に疲れるだろうから、俺がおぶってやる」
「あらそう」
「汗をかくから水を浴びなきゃいけない」
「それで?」
「俺を見捨てて寝ちまうなんてことはないだろう」
「寝るかもしれないわ。疲れてるんだもの」
「じゃあ俺の蒲団を使ったらいい」
「私、あなたの部屋には行かないわよ?」
「おぶったまま、俺が連れて行くのさ」
「狡い人」
「それでも俺が好きだろう?」
「そんなこと、言ったことないわ」
「言ってくれ。今夜がいい」
「言うかどうかなんて分からないわ」
「きっと言うさ」
 冷たい舌はふくらはぎを撫で、裾を割る。長崎はわずかに足を開くが易々と侵入は許さない。ぐいと膝を閉じて行方を遮る。福岡は笑い、閉じた膝の上に遠慮無くのしかかる。キスだけ、と悪戯っぽい声が囁いた。長崎は微笑んで目を閉じた。キスは頬に二度、三度と触れ、かすかな吐息を吐いた長崎の唇を塞いだ。




2015.7.12 しゃさんの県擬の二次。