腹を割って話そう




 指先がメスのように胸から腹を切り裂くのを麻痺した痛みと涙の向こうに見る。カーズは僕を殺さない。カーズは僕を裏切らない。でも僕の命は僕とカーズを裏切ることがあるんじゃないか。ひょっとして油断したら死んでしまわないか?いや、死んでも多分ビンタ一発で僕は死を回避しちゃうんだろうけど、ううん、この場合は張り手一発かな。きつい。
 のろのろと溢れ出す血をカーズが飲む。絶対そんな必要ないのに。多分内臓を直接舌で舐められた僕が勃起するのが楽しいんだと思う。割とお決まりの反応なんだけどカーズはエロい意味より、生と死のギリギリの境で僕が懸命に生きようとし肉体と生命の全てをもって目前の死に抗い命を残そうとするその反応としてこの勃起が好きなんだ。だから射精させてくれたことはない。っていうか出したら多分僕は死ぬ。イク瞬間に逝くとか洒落にならないから…。勘弁してくださいよカーズ先輩。
 でも勃起しながら、僕の血で赤く濡れたカーズの唇を引き寄せてキスをねだる僕も相当終わってる。生と死の狭間での快楽の耽溺は、どうも人間らしい生き方を踏み外した気がしてしょうがない。後で相当自己嫌悪に陥るんだけど、今の僕はカーズにキスしたくてたまらなくてそれを我慢できないのだ。お腹まで裂かれ死の際で思い出すべき顔は父も曾祖父もペネロペもジョエコもリサリサさんもナランチャもブチャラティも遠い過去の宇宙のジョージもとっくに走馬燈済みで、あとはカーズしか残っていない。っていうかもうカーズがいればいい。命の瀬戸際で僕以外の世界は全部カーズでできている。僕の腹を切り裂いたのはカーズなのに僕はカーズが愛しくてたまらないのだ。