北の国から
君を想ってどこまでも歩いて行きたい。この雪が溶けたという大地を。どこまでも広がる短い草の緑と、青空から落ちてくる風の匂いは北の国だ。 この先に道はないと教えてくれた農家が貸してくれたのは小さな馬だけど脚が太く丈夫で、ジャイロを乗せてトコトコと歩く。ぼくはその数歩先を歩きながら、君の見えない景色を、君の存在を感じ、君のことだけ考えながらどこまでも歩いていけたらと思う。行き着く先は海だそうだ。(だがそれはまだまだずっと遠い)。砂浜には白とピンクのバラが咲き、冷たい海風に吹かれているらしい。その海の先は? 氷の世界。でもどこだって。君を想えば、君がいればどこへだって。雪は花びらのように降るし、花は雪化粧のように大地を染めるだろう。 「ジョニィ!」 後ろから呼ぶ声。ぼくは返事をせずに走り出す。 「おい、ジョニィ!」 馬の駆ける音が近づき、あっという間に追いつく。並んで走る。脚は疲れない。いや、それはちょっと嘘かな。でも疲れることだって心地良い。脚が動いて馬の蹄の音と、鼻息と、その上に乗った愉快な男と並んで走っているんだよ。知らない世界を、初めて見る大地を、踊る胸を隠さずに走っているんだ。笑わずにはいられない。 「ジャイロ!」 笑い声のはずが君を呼ぶ声になる。 「ジャイロ!」 ちょっと振り向き、転びそうになり、でも大丈夫だ、ついた手がぐんと身体を押す。倒れないぞ。脚が強く命の匂いに噎せ返りそうな大地を蹴る。 「海まで行こう!」 「走ってか?」 「走ってだ!」 勿論さ! ぼくらはずっと走ってきたんだ。ずっとだ。 バラの名前はジャパニーズ・ローズ。ここは北の果ての大地。誰かの旅が終わって、ここから始まってどこへ旅へ出てもいい。ぼくらも岬にゴールしたら、また次の大地に旅に出よう。 バテたぼくに向かって腕が差し出される。ぼくはそれを強く握りしめる。 2014.1.27 |