サクロサンクトサクリファイス 19




 揺らぐ足下。黒と白と灰色の世界。もう立っていられないと思いながら脚を動かし続ける。何かが聞こえる。全身が耳になったかのように打ちつけられる轟音。誰の声もその中に掻き消され、目の前では砂と煙が蠢く。歩き続ける脚には名前がない。自分が誰なのか、分からないままに歩く。
 耳元に風が渦巻く。海は真っ白に染められ、身体はそこへ落ちてゆく。ぬくもりの只中。湯のようにあたたかく湿った手が自分を抱き締める。遠い場所でベルが鳴った。メロディアスな電子音は電話の音だ。壁の向こう。ドアの向こう。ここには関係ない。ここにはシーツの海しかない。寝返りを打つとあたたかな体温が全身を包み込み、電話のベルはいっそう遠くなる。眠りの膜の向こう、この身体を抱く腕の向こう。安全で完璧で完全に完結した長方形のベッドの上には苦痛など存在しない。
 ぼくの名前はジョニィ・ジョースター。
 びくりと震えた脚がシーツを蹴った。ジョニィは暗闇の中で息をこらす。心臓の音がドクドクと鳴り響く。窓の外は雪。静かだ。静かな夜だ。脚はまだ震え、爪先がシーツを掻いていた。ジョニィは膝に手を伸ばそうとし、自分の掴んでいるものに気づいた。鉄球だ。
 恐る恐る首を巡らす。ジャイロの姿はない。昼からの出勤だった。帰りは真夜中だ。今、何時だろう。枕元では時計が青白く数字を浮かび上がらせていた。深夜二時過ぎ。
 ジョニィは息をこらしたまま身体を起こす。ドアの隙間から光が射していた。帰ったのだ、彼が。
 シーツの上に残る自分の体温が後ろめたくて、明かりをつけた。電灯の下に照らされた部屋はどこもかしこも現実的に見えた。現実的な分、シーツの皺がやりきれず、ベッドを作り直し窓を開けた。風はない。冷たい空気がつんと鼻の奥を刺した。
「ジョニィ」
 寝室を出ると、テーブルに山と積まれた資料の向こうでジャイロが目を丸くした。
「起こしたか?」
「ううん」
 遠回りにテーブルに近づく。
「また何かやらかしたの」
「おいおい、オレは優秀なERの医師だぜ」
「自分で言う?」
 明日ある脳外科の手術に呼ばれたのだとジャイロは説明したが、あまり興味はなかった。テーブルの上には、帰宅してすぐ広げたのだろう資料の山ばかりでコーヒーさえない。本人も上着をかけた以外は、帰ったなりの姿のようだ。じゃあ、この手に握っていた鉄球は?
「で、徹夜?」
「馬鹿言え。大事な手術の前だ。たっぷり寝てやる」
「そうも見えないけど」
 テーブルの上の惨状を見遣り、ジャイロはくしゃくしゃになったプリントアウトの皺を広げた。眠りかけて握り潰してしまったのだろう。溜息をついたかに見えたが、それはそのまま欠伸になった。
 自分を見つめる視線が途切れ、ジョニィは息をつくように背を向けた。キッチンに近寄り、壁のスイッチを探る。
「ハーブティー飲む?」
「オレを起こしときたいのか? 寝かしたいのか?」
「どっちでもいいよ。君が決めることだ。ハーブティーはぼくが飲みたいんだよ」
 ジャイロが軽口を言おうとして口を開いたのと、続けるつもりもなかったジョニィが思わず、寒くて…、と呟くのは同時で、二人の声はそのまま尻すぼみに有耶無耶のまま掻き消えた。
 ハーブティーを飲む間、ジャイロは資料に目をやらなかった。カップにゆらめく水面の光か、あるいは遠くを見るような目でジョニィを見ていた。ジョニィはジャイロの視線に気づいてはいたが、飽くまで鈍感のふりをした。視線を合わせたらジャイロがこちらに手を伸ばすような気がした。何故かそれが後ろめたかった。やっぱりさっきの夢にはジャイロだったのだろう。筋も具体的な光景も覚えていない。あの夢そのものがジャイロだ。それなのにひどく不穏で淫靡な印象が肌の裏にべったりと貼りついて内側から苛まれる。
「ジョニィ」
「…おかわり?」
 わざとそう言って立ち上がろうとしたところを手が掴んだので、やめろよ、と小さく言った。ジャイロはすぐに手を離した。
「こっちを見ないか? ジョニィ」
「ぼくはもう寝る」
 眠いんだと言うと、オレも眠いわ、とジャイロが虚ろに笑った。
「ごちそうさま」
「イッツ・マイ・プレジャー」
 返した言葉はジャイロの真似だとすぐに気づいた。無意識のうちに彼の言葉を真似ている。恥ずかしくなって、カップもテーブルの上に置き去りにしたまま足早に寝室に向かった。ベッドに横になりそもそもジャイロのベッドで寝るからこういうことに…と思うが、今更ソファには戻れない。あの優しい視線に晒されては眠れない。そう考えながら思い出すのはジャイロの眼差しで、ジョニィの肌は内側からぞわぞわと蠢く。ジョニィはジャイロ以外のことを考えようとする。しかしそんな時に限って兄の面影も気配も声もなかった。銃声も聞こえない。ジャイロを思えば思うほど肌はぐねぐねとおぞましく蠢き、これならばいっそ罰せられる痛みの方がましだとジョニィは強く目を瞑った。
 強く眼を瞑ったことさえうたた寝の間に見た夢だと気づいたのは、シーツの隙間に冷たい空気が入り込んで寒いと思う間に、自分以外のぬくもりを背中に感じたからだった。時計は見えなかったが、部屋も、窓の外も暗く、まだ朝と呼ぶには早すぎる。ジャイロは何時間眠るのだろう。
 冷たい足が押しつけられる。ジョニィは逃げようとしたが、両足で挟まれてしまった。何をするんだと言いたかったが、声を出すのが億劫な程度には眠かった。さっきまで自分が寝ていることにさえ気づかずに、このまま起きていられるとさえ思ったのに。
 不意に肩を掴まれ強く抱き寄せられた。ぬくもりは背中全体に触れ合い、眠りに入ろうとする息が耳元にかかった。ジョニィはどうすることもできず、身体を弛緩させた。心は驚いた拍子に麻痺してしまった。だから感じたのは嫌悪ではなかった。腰の、やや下に当たっているものが何であるかが分かっても。気づかないふりをしていれば、明日の朝には何事もなかったかのように振る舞えるだろう。ジャイロもそうするはずだ。ジャイロ自身、あれだけ眠かったのだ。この現象は単なる不可抗力的肉体反応で危惧するような感情などきっと介在していないのだ。それでいい。
 ただ、もし眠っているのならば。
 ジャイロの息に耳をすます。本物の寝息のように聞こえる。ということは本当に眠っているのであれ、実際は起きているのであれ、眠った状態をジャイロは選択したのだ。そしてまたジョニィもそうだった。寝たふりをずっと続けている。だからこれはうっかり寝相や何かの不可抗力的な無意識の行動なのだ。ジョニィは肩を掴む手に自分の手を重ねた。掴む力が解け、指が絡み合った。
 どちらがついた溜息とも分からなかった。自分さえも欺く秘密の中で、言葉にならない感情が掌の熱にのせて行き交った。
 早く夜が明けてほしいとジョニィは願った。これを真夜中の秘密にして閉じ込めるのだ。優しい指も、絡みついた冷たい足も、押しつけられた男性的な熱も何もかも。秘密のままでいい。ジャイロの本当の感情が分からなくても構わない。ただこの手の優しさを覚えていれば、ジャイロが自分に向けた真っ直ぐな熱を覚えていれば、この先どんな茨に脚を貫かれようとも最後まで歩いてゆける。死ぬまで立ち止まらず生きていける力になる。
 感情を言葉にして思うことさえ恐かった。滲んだ涙を枕に押しつけジョニィは心の中でおやすみを繰り返した。

          *

 外へ踏み出した瞬間冷たい空気が耳の奥でキンと音を立てるほど刺して、この肉体に残った熱を思った。汗は拭ったのに、その感触はまだ消えていない。ポケットに突っ込んだ手は絶えず鉄球を撫でていた。既に回転を止めたそれをゆっくりと手の中で回す。ある医者の煙草のように、チョコレートのように、ジャイロの肉体もまた無意識のうちに安息を求めているのかもしれなかった。
 地下鉄の轟音が足下から噴き上げる。車道の雪は溶かされタイヤがひっきりなしに泥水を跳ね上げる。夜になればまた凍結するかもしれない。急な呼び出しが鳴らないといいが。今日は疲れていた。早く部屋に帰りたかった。夕食は期待していい。最近のジョニィは作りすぎだ。感情を持て余しているようだが、それはジョニィの肉体や語られない過去を考えれば仕方ない。無理強いはしたくない。ジョニィの感情は、言葉にされなくてももうジャイロに流れ込んでいる。あとはジョニィさえその気になれば。いや、その前に同居のルールを改める必要がある、か。どう切り出したものかとにやけかけた口元をコートの襟で隠し、ジャイロは足早に駅への階段を下りる。
 夕暮れ時の構内は犇めく人波に混雑していた。その時、耳は奇妙な音を聞いた。ざわめきを切り裂いて耳に届いた音がある。それはホームに滑り込んだ地下鉄の騒音ではなく、それに隠れて確かに何かを裂いた音。
 心当たりにコートの胸を手で探り周囲を見回すと、斜め前の太った男の頭上へ素早いものが消えた。近くにいる。ヤツだ。
 鉤つきのワイアーが目の前をよぎった瞬間ジャイロの手はそれを掴み取り、柱の陰からは悲鳴が上がった。
「出て来い、クソガキ」
 ワイヤーをぐいと引き寄せると柱に隠れていたポーク・パイ・ハット小僧の姿が引き摺り出された。
「畜生、やめろ、やめろよ」
「またスリか。学習能力のないヤツだな。オレにボコボコにされたのを忘れたか?」
「ちげーよ! ちげーんだ!」
 しかしジャイロの目の前に出てきたポーク・パイ・ハット小僧は早速コーヒーをたかり、ジャイロが嫌々ながら冷たいコーラを買ってやると口の端からこぼしつつ、うめえ!という叫びをホームに響かせた。
「あのな、ツェッペリン、オイラはバカだけど頭悪くねーぞ。たかるためじゃねえ。おめーを待ってたんだ。おめーには借りがあるからな」
 オイラ、頭は悪くねーんだ、と言いながらポーク・パイ・ハット小僧はボロボロのオーバーオールのポケットから紙を引き摺り出した。
「なんだ、百点の答案でも見せてくれるのか」
「馬ッ鹿おめー、オイラはもう働いてんだぞ。見ろ」
 茶々を入れられ、一瞬目的を忘れたポーク・パイ・ハット小僧がぐんと頭を突き出す。確かに被っているのはお馴染みのボロボロの帽子ではなく会社のロゴの入ったヘルメットだ。見ればオーバーオールにもワッペンを付けている。
「おめーは知らねえだろうから教えてやるよ。グラウンド・ゼロはとうとう瓦礫の撤去が始まったんだ。周りのビルだって建て直したり割れたり壊れたりしたのなおしたりよお。オイラあそこの現場でクレーン操ってんだぞ。仕事してカネもらってんだぞ」
 ポーク・パイ・ハット小僧は自慢し、ウィーンウィンウィンとワイアーを巻き取る音を真似した。同時にジャイロは口元に異様なものを見る。ポーク・パイ・ハット小僧のすきっ歯の間から垂れたワイアー。その先には鉤がついている。ポーク・パイ・ハット小僧は自らの肉体と一体化したこのワイアーを自在に操り、かつては地下鉄でスリを稼業にしていた。その手口は一般の人間には魔法のようなものだったから、被害にあいかけたジャイロが逆に相手をふん縛るまで一度も捕まったことがなかった。以来、何故か小僧はジャイロに――そこそこ――懐いている。
 本当はオレがおめーにコーヒー奢ってやれんだ、と元スリは胸を張り、それをボコボコにして自分で治療してやった医者は感動はしなかったものの、自分で稼ぐようになったならそりゃまあめでてーこった、とついでに煽てて不味いコーヒーを奢らせた。
「で、コーヒーで借りは返したってのか」
「おお。これだ。ツェッペリン、見たら腰抜かすぞ」
 そう言ってポーク・パイ・ハット小僧がポケットから引き出したものを見た瞬間、確かにジャイロは腰を抜かしそうになった。
「オイラ頭は悪くねえんだ。だから隣のベッドにいたヤツの顔も名前も覚えてる。あいつの名前はジオシュッターだ。なあ、これはジオーシュッターだよな?」
「ああ…」
 ジャイロは動揺を隠してわざと難しい顔をし、口元を手で覆った。
 それはポスターだった。九月のあの日から病院の待合室、廊下の壁、街角や瓦礫の跡と様々な場所に溢れたあの種のポスターの一枚。
 写真の中、人形のように美しい笑みを作った女がこちらを見ている。白い肌。ブロンドの前髪から覗く淡いブルーの瞳。
「似てるな」
「同じ顔だぞ。おんなじ顔。だけど名前が違うんだ。エリナ・ブランドー。おめーはジオシュッターのことをエリナって呼んだよなあ。こりゃあ何だ?」
 こいつはやるよ、とポーク・パイ・ハット小僧はポスターをジャイロの手に押しつけた。
「待て、これをどこで見つけた」
「オイラ、毎日グラウンド・ゼロにかよってんだ。あそこにいっぱい貼ってあるぞ」
 ジャイロは再びポスターに視線を落とす。顔写真と名前の下には、情報提供者に報奨のある旨記載されていた。
「ポーク・パイ・ハット小僧」
「オイラ、おめーには借りがあるからな。ジオシュッターにもな。スープうまかったしよお、オイラ知らんぷりしてやる。でもこれで借りはチャラだ」
 ひゅっと風が鳴り、ジャイロがコートの胸を押さえた時には財布はポーク・パイ・ハット小僧の手の中にあった。
「じゃあな、おじん!」
 手を振り、小柄なポーク・パイ・ハット小僧の姿はあっという間に人混みにまぎれて消えた。しかしジャイロはそれを追いかけなかった。
「エリナ…」
 その名を口にした瞬間、氷でも飲んだかのように内臓が震えた。
「ブランドー…?」

          *

 全ては遠かった。遠いところからひとつ、ひとつと滴り落ちてくるのだった。雨音。遠い雷。窓はぴったり閉ざされて、世界さえ隔てているようだった。ここだけは安全で、ここだけは変わらない。古くさい本の匂いや、一度も弾かれたことのないチェロの存在が静寂の世界を支えていた。その中での眠りは完璧だった。
 久しぶりにソファに横たわりうとうととしていた。まどろみの中、何もかもが遠ざかった。ニューヨークも、現実も、自分自身さえも。名前のない一つの肉の塊として眠った時、雨音は聞こえているのに邪魔ではなく、遠雷に神経を震わすこともなかった。古い器物たちの作り出す悠久の静寂。誰もいない部屋の安息。死が恐ろしくない瞬間があるのだ、とジョニィは思った。このまま永遠の眠りに落ちたなら、たとえ魂が地獄に落ちたとしても心は永遠に安らいだままだろう。いかなる痛苦もものとはするまい。
 だから――しかし――出て行かなければならない。今からでも。
 しかし――だから――いつまでもここにいたい。最初の夜にそう思ったように。
 矛盾する思いの狭間へ落ちる一滴の。眠った唇の上に落ちたそれは雨のようだったし、隔てられた世界そのものだった。現実。ニューヨークの空気。寒く湿った霙の夕方の路地の匂い。
 瞼を開けるとすぐ近いところにジャイロの顔があり、視線が合った。ジョニィの心は静かなままだった。部屋の静けさと同じく揺るがぬ静けさに満たされていた。むしろジャイロが取り乱しはしないだろうかと心配したほどだが、当の男はまた少し苦しそうな表情を眉間や目元に刷き、すっと離れた。片手はソファの背もたれを掴んでいた。もう片手はジョニィのすぐ脇に突かれていた。その手がどいてソファのスプリングがわずかに戻る。
 ジャイロは背を向け、椅子にかけた濡れた上着を取り上げた。ジョニィは肘をついて身体を起こした。静けさを形にしたような部屋の中で、ジャイロの背中だけがわずかにズレている。
「なんで」
 ジョニィは何気なくきいた。
「キスしたの」
「理由が必要か?」
 背中の向こうからジャイロが答えた。
「必要だろ」
「なにをカマトトぶったこと…」
「君に必要なんだ。理由の伴わない行動を君はしない。君には納得が必要なんだよ。その信条に背く行動をとる時、君は自らの行動で破滅を呼び込む」
「…おまえがオレの何を知っている」
「見たままのものを知ってるだけさ。今のはぼくの感想だ」
 壁に上着をかけ、ジャイロはキッチンに消える。ジョニィは再び身体を倒し、コーヒーの香りが漂ってくるのを待った。しかしいつまで待ってもそれはなかった。物音一つしなかった。足音だけが一つ近づいてきてジョニィの上に大きな影のように覆い被さった。
 冷たい手がTシャツを捲り上げる。腹から一気に胸まで露わにされ、ジョニィも思わずその手と自分の身体を見た。ジャイロの手はコーヒーの用意をした形跡がなかった。冷たく、かすかに血の気を失って白かった。冷えた手と冷たい空気に晒されぞわりと鳥肌がたった。小さな胸の上で乳首が上を向いていた。
「ぼくが女に見える?」
 ジャイロの顔を見上げ、そう言った。
「君が続きをするつもり?」
 ジャイロの表情はもう苦しそうではなかった。眉間からも目元からも苦痛の気配は去り、彼はこの部屋と同じような静けさを身に纏い始めていた。
 興奮はなかった。情欲はその影さえなかった。しかし静けさの中でジョニィの胸は隠されず、露わになったままもう一度触れる唇を受け入れた。目を瞑ったのはジャイロだった。ジョニィは始終目を開けていた。間近に迫ったジャイロの睫毛や眉の線をぼんやりと見た。
 キスの後でもジャイロはジョニィのTシャツを元に戻そうとはせず、ジョニィは相手が背を向けて本当にその気はないのだと知ってから溜息とともに裾を戻した。薄っぺらな服一枚のぬくもりが部屋に静けさを取り戻させた。そこはいつもの部屋だった。ジャイロはキッチンでコーヒーを淹れ、よい香りがここまで漂ってきた。テーブルの上には資料や本が山と積み重ねられていた。部屋の隅のチェロは音楽を忘れたとでも言うように沈黙していた。だが音はあり、ニューヨークに降り注ぐ霙の音、ビルの隙間を吹き抜ける風の音が届く。静寂の中、雫のようにジョニィの意識に落ちてくる。
「暗いな」
 コーヒーを運んできたジャイロが電気を点け、今までのもの全てが幻だったかのように消え去った。
「ジャイロ」
「おまえは」
 現実の中でジャイロが振り向き、問いかけた。
「エリナ・ブランドーなのか?」




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2014.1.27