MY FUYUKA COLLECTION
だから好きだって何度言えば分かるんだ、あの女。 オレは一度言ったし真面目に言ったし真剣に言ったし、だから久遠の家に住んでいるし、久遠のやることを怒りはするけど腹を立てたことはないし嫌がったけど拒否したことはない。 あいつはどこかしら馬鹿なところがあって、襲えとかオレに対して言ってくるけど、それがどんだけ大事な事で重要なことだか分かっているのか。 オレは童貞で、お前は処女なんだぞ! それを全裸で目の前に立ちはだかるわ、部屋には忍び込むわ、ベッドの中で(自主規制) あいつその内レイプ魔になっちゃうんじゃないの?襲われるのオレなんじゃないの?童貞は捨てるもんじゃなくて喪失するものになるんじゃないの?なんでオレこんなこと真剣に考えてんの?馬鹿なの?死ぬの? これと決めた人間を大事にすることの重要性を、あいつも、あいつの父親も、本当は理解しているはずだ……多分、自信ねえけど。理解していなければオレを一つ屋根の下に住まわせるはずがないし、こんな状況を許しはしねえだろう。いくら色気がねえからって久遠は年頃の娘なんだし。 オレだって分かっている。一人を決めて、とことん大事にして愛して一生を誓ってその処女をもらって自分色に染めるってことがどれだけ恐くて凄いことか。オレとあいつの一生が変わる。人生の景色がそこから全部変わっちまう。その中で心がすれ違ったらどうする?喧嘩したら鬼道クン相手のそれと同じようにはいかないだろう。一緒の時間を共有するなら不可避の事態だ。絶対喧嘩しないなんてあり得ない。 それにもし久遠を失うようなことがあったら? 大事にしたい守りたいっていうオレの思いに嘘はない。告白したとおりだ。でも絶対はあり得ないんだ、この世界に。強い力だって手放してしまうことがある。やれると思ったことが、自分では駄目だったこともある。オレは自分の程度を知っている。オレと一緒になるってことは、オレの傷をあいつにも負わせる可能性があるということだ。 久遠だって分かってない…訳じゃない……はずだ………多分。だからオレのそばにいるんだろう。オレを抱きしめるんだろう。そうやって行為で示すんだろう。オレを好きだと繰り返すんだろう。オレが不安になることがないように。 嬉しくない、訳じゃない。 その証拠にオレは久遠が言ったどんな馬鹿らしいベッドへの誘いも覚えている。本当にアホらしいのもあった。 事例一、イエスノー枕が置かれていた(勿論イエス側) 手作りの枕カバーとか。それぶん投げたら枕投げ始まるわ、あの馬鹿親父乱入するわで翌朝隣の住人から苦情が出た。 事例二、「なんだか身体が火照っちゃう…」とボタンを外す久遠 黙って冷房のスイッチを入れました。 事例三、「外は雨だし私たちも濡れちゃおうっか!」 台風の夜だった。どんだけ激しいプレイをご所望だよ。 事例四、「あきおくん、今夜はふゆかとファイト一発!」 ご丁寧に栄養ドリンクを掴んでガッツポーズされたよ。股間を掴まれなかっただけマシだと今となっては思います。 数え上げればキリがないが、これの二倍も三倍ものことを全部思い出で覚えてるオレも相当なもんだろう。 いつかちゃんと触ってやりたい。触りたい。オレの求めてることとあいつの求めていることが一緒になった時、ちゃんと満足いくようにそれをしたい。 ソファでぼんやりそんなことを考えているとオレの分身がちょっと反応して、あ、やべえ、と思いこのまま萎えるようなことを考えてやり過ごすか、トイレに行くか決断を迫られる。しかし折しもそこへと言うか風呂上がりの久遠が「あきおくーん!」と叫びながら飛びかかってきてオレピンチ。 「へへへー、湯上がり卵肌ダイブですー」 にっこり笑うその笑顔は可愛くて天使みたいで無垢で穢れなくて、だけど同時にどうしようもないくらいに色気がなくて、オレのジュニアは悲しいくらいシュンとなった。 「あれ?どうしたですか?」 「…なんでもねーよ」 冬花、をオレは抱きしめる。冬花はオレの腕の中でなんですかー?なんですかー?とうるさく繰り返す。かわいいじゃねえか、黙れよ。キスして黙らせると、冬花は猫のようにごろごろとすり寄った。多分今夜も一緒に寝ることになるだろう。今夜が、いつか、と決めた夜にはならないだろうが、まあ、いいさ。
2011.9.10
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