chatter chat, colorful mail
ファーストフード店の二階からは平日の午後の通りが見下ろせた。 彼らのオフは、必ずしも世間一般の休日とは一致しない。日曜に試合が行われることはしばしばだ。不動は手も口も器用に動かす同席の女子三人を眺め、変なの、と思った。そういう自分が一番変かもしれないが。 木野秋、音無春奈、久遠冬花の三人はそこに一人だけまじった紺一点にも気にせず、むしろ会話の中に引き込みながら喋っている。 手前にはケーキと、ドリンクバーのコーヒーと、四人でつまむポテト。不動は控えめにしているが、三人はぱくぱくと食べる。太らねえのかな、と思う。余計なお世話なのだろうが。実際、イナズマジャパンのマネージャー達は平均か、それよりやや細いくらいの体型で、食った分だけカロリーを消費する仕事なのかもしれない。 「それは鬼道君の気遣いじゃないの?」 春奈が兄のことで文句を言うのに、木野がなだめる。 「でも兄妹であれだけ本音をぶつけ合ったのに、今になって隠し事なんて!」 「そりゃ、やかましさんよ」 「音無です!」 「その口が災いしてるんじゃねえのかぁ?」 「不動さんまで何ですか!もういいです、一生ベンチでいてください!」 「おーおー、そん時は隣同士仲良くやろうぜ」 春奈は心底嫌そうに眉根を寄せ、べーっと舌を出した。こらこら、と木野は女子にあるまじきその顔を隠すように手を伸ばし、向かいの席の久遠冬花は口元を隠して笑っている。 なーんで、と不動は思う。なんで俺、普通にマネージャーとお茶なんぞしてるんだろう。しかも打ち解けてるんですけど。鬼道クンの妹と軽口なんか叩き合ってるんですけど? 自分でもおかしくてニヤニヤ笑っていると春奈がいっそう臍を曲げた。仕方なく、甘い物を追加してやる。ケーキは出尽くしたからアイスクリームだろうか。早速届けられたそれに春奈は「懐柔なんかされませんから!」と言いながらぱくぱく食べた。 女子ってこんなこと喋ってんだな。すごくどうでもいいことを、熱心に、楽しそうに。 「そうそう、誕生日っていつ?」 木野が携帯電話を取り出す。 「動物占い、相性診断もできるのやったことある?」 「あー、自分の動物も忘れちゃいました」 「冬花ちゃんは?」 「あ…私やったことなくて」 続いて木野は不動を振り向く。不動は苦笑する。 「やるように見えるか?」 「じゃ、最初からやってみようか。春奈ちゃんから」 「あ、私、不動さんとの相性診断だけはパスします」 「こっちから願い下げだよ、やかましさん」 木野はまあまあと取りなしながら春奈の誕生日を入力する。動物の名前と性格を言うと、当たってる当たってると春奈は連呼する。 占いなんて、と不動は考えている。運も不運も自分で掴み、選択するものだ。性格だってちょっと当たってれば、全部当たって感じるだけじゃないのか? しかし木野は屈託のない顔でこちらを向く。 「不動君の誕生日は?」 この流れから言えば自然なことなのに、不動は虚を突かれてぽかんとした。 占いが、ではない。自分の誕生日を人に教えることがだ。 ぼそぼそと、言った。 木野が診断結果を読み上げる。あー当たってる。当たってますね。マネージャー達は口々に勝手なことを言う。 久遠冬花が自分の携帯電話を取り出し、何かを入力した。春奈に画面を覗き込まれ、ちょっと照れたように答える。 「折角みんなの誕生日を教えてもらったから、カレンダーに登録しておこうと思って」 「それじゃあ私も! そういえば冬花さんの誕生日って知らなかった。名前どおりな誕生日ですね」 春奈は笑う。 「誕生日が来たらハピバのメール送りますねー」 「じゃあ、私からも」 こうなってくると流石に不動は置いて行かれた気分で、まるでピンク色の花模様でも飛んでいるかのような女子マネージャー三人を眺める。 ふと久遠冬花と目が合った。彼女はちょっと会釈して微笑んだ。不動は視線を逸らし、窓から平日午後の通りを見下ろした。俺、現実世界にいるよな。と確認した。 * 自分の誕生日が来る頃、不動はそんなことなどすっかり忘れていたが、夕方近くになってメールが三通も届いていた。彼の交友範囲からすれば珍しいことだ。しかも並ぶ女子の名前。 木野秋。 音無春奈。 久遠冬花。 ハッピーバースデー。 デコレーションされたカラフルな画面が網膜を刺激する。 「う、わ」 思わず声が出た。 「マジか」 携帯を手に掴んだまま廊下に佇んでいると、後ろからやってきた佐久間が膝カックンをかませたので、本気で怒って追いかけた。それにかこつけて照れ隠しした、というのが正直なところだった。なにせ不動の顔は真っ赤だったのである。
2011.5.18 腹板さんお誕生日おめでとうございます。
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