ロードシスではないけれど、背中


 平らかで直ぐな背を、掌が撫でた。手触りを確かめながらゆっくりと滑る手に、膚の下がさざめく。凪いだ心の底流が低く音を立てる。枕に顔を伏せたまま、視線をそっと投げた。手は腰骨の上で止まった。じわり、と妖しげに動く。尻の上で指先にぐいと力が入った。
「痣だ」
「先生にもあります」
 内腿の…、と目を伏せる。掌はするりと背中まで滑り、ざわざわいう膚の囁きが後を追った。肩を包むぬくもりが、首筋へ移ると確かに意図を持った熱に変わる。
 風に蚊帳の表面が波打った。涼しい空気がゆったりと揺れた。
 眠りに落ちる段になり、耳に虫の声が蘇った。
「静かです」
 寝返りの衣擦れ。伸ばされた手が頬を抓んだ。
 ふん、と声のない満足げな笑いが吐き出され、応えて微笑む。
 瞼を閉じると蚊帳の中の闇がそのまま眠りとなって重くのしかかり、後は覚えない。