情が交わると言うのなら


 この人が本当に幸せを望んでいるのは、私自身ではなく、私が幸せな状態であることで安堵する父のほうではないのか。しかし田代の眼差しに愛情を認めたではないかと過去の自分が抗議する。竹子は自分の価値は山本の娘であることの一点に尽きると知っていた。前の夫が自分をつまらない女だと罵ったのは、いっそ他人より自分と向き合った故の言葉と今は思える。田代は優しい。慈愛を持って接してくれる。まるで彼ら二人の娘のようだ。自分という存在には常に父の面影が重なる。田代は自分の肌に触れる時わずかに萎縮する。
 父と添い遂げたいと想ったのは田代だろうか。それとも自分なんだろうか。
 自分は本当にこの男の妻なのだろうか。
 この男を夫として、本当に、自分は…。
 肩に強くぶつかる。それでも田代はびくともしない。この人も男なのだ。
 男だ。
 だからこそだ。
 あなた、と囁くと田代は明かりを落とす。布団を敷くよりも、と座布団の上に寝かされ竹子は夢中で男の首にむしゃぶりつく。
 忘れてしまいたい。自分という存在が恥ずかしい。しかしこの男と交わっている時だけ、それは薄れる。後でどれだけ浅ましい自分を恥じることになろうとも、竹子は止められないのだった。
「強く」
 必死の息で竹子は囁いた。
「強く抱いてください」