月の報せ


 月はとろりと金属を溶かしたような光で、夜はしんと深く山も空も暗いのに、その光り方はひどく孤独で美しかった。自分の顔が照らされているのを、田代は分かっていた。眼鏡を越して、輪郭のはっきりした居待月は、手を伸ばすには遠かったが、あの山の上に登れば届くのではないかと思えて。
 空に掛かっているのではない。目の前に確かにある。
 だが月なのだ、と田代は思い、自分の子供じみた考えとの間でぶれを起こした。ふと誰かに呼ばれた気がして立ち竦んだ。
 呼んでほしい。
 そばにおれ、と言っていただければ自分は…。