居眠りする先生


 先生、と縁側から呼びかける。涼しげな座敷の陰に横たわる姿を見て、二声を留めた。
 燦々と差す日は日に日に宵を侵食し長い夕暮れは暦相応の風に息をつく時間だった。風呂を焚く、夕飯の支度をする、だがその前に、一時。
 田代は縁側の柱にもたれかかり、宵の匂いを孕む風の中に息を吐いた。
 これで実は寝るのが好きだと言う話を、聞いたのはつい先日のことだった。




陣基の素足


 す、と白い素足が横切る。目覚めてはいるが、心を半分寝かせたままにしておきたいような心地で山本はそれを眺めていた。手を伸ばしたい気持ちを抑えるのにも眠気はちょうどいい重石だった。内心含み笑いをしながら初夏の陽の照り返しを浴びる足の足首のすっと伸びたのや、あなうらの影、そしてやはり指の、切り揃えた爪の形まで見ていて飽きぬのの、生きて動く有様。光の縁から陰影に踏み込む瞬間の、畳を擦る微かな音。贅沢を味わっていると、その足が目の前でひたと止まった。
「先生、起きてらっしゃるでしょう」
「寝ているぞ」
「先生」
 膝をつき、足の隠れたのを残念に思うているとすぐ目の前に顔が覗き込んだ。
「先生」




2014.2.21